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カフェ『皐月堂』へようこそ(レナルキ他)
動き出した時間 前編 Side:METALMAMEMON
 白い。
 ――白い?
 何もかもが真っ白だ。視界一杯に白い色が広がっている。
 ――ここはどこだ?
 俺は目の前を見ようと凝視した。周囲を見ようと辺りを見回しても何も見えない。
 ――なぜだ? 何もないのは、まさか俺の目が見えなくなったのか?
 不安に駆られ、俺は目を凝らした。赤外線サーチを使おうとして、ふと気付く。
 ――違う?
 地面と空の境目が、遥か遠くに見える。首を傾げ、しゃがむ。
 ――あ……。俺、デジモンの姿? なぜ?
 しゃがんで地面に触ろうとして、メタルクローを装備している自分の手を見る。何だか不思議な気持ちになった。普段から使っているものなのに、とても懐かしく感じる。
 地面に触ってみると、それは床だと判断出来る。それもそうだ。真っ白い地面なんてあるはずが無い。けれども継ぎ目がない、硬い床だった。どういう床材を使っているのだろう?
 ――真っ白い床に、真っ白い天井?
 遥か上を見上げて、それはどうも天井ではなくて『空』のような気がした。
「ここは?」
 何も他にはない真っ白い世界。
 ――他には誰もいない?
 俺の心に空洞が生まれる。
 ――どこ?
 俺は真っ先に、あの姿を探す。
 ――探さなくては。見つけなくては……!
 俺が憧れて、恋して、何よりも大切に思った貴女を……。
 けれど、
 ――大切に思っているのに、悲しませたじゃないかっ!
 俺は唇を噛み締めた。
 ――ズルイじゃないか! なんてズルイんだ! 一番大切だと思うのなら、何で悲しませた? どうして泣かせた? あんなに辛い目に遭わせて……なのに! そんなにあっさりと探そうと出来るなんてっ!
「――クソッ……っ」
 自分が許せない。最後まで貴女を悲しませた自分が許せない……!
 ぎゅっと瞼を閉じた。けれども、
「…………」
 俺が思い出すのは辛そうな貴女の顔じゃない。優しい笑顔――真紅のバラのような鮮やかな微笑み。
 ――貴女はいつもお人好しで、優し過ぎて、こんな……こんな俺を信じようとしてくれた……。


「何を考えているの? 誰のこと?」


 優しい声が俺に話しかけた。俺の目の前に『誰か』がいる。声は上から聞こえる。背が……高い?
 ――誰だ?
 瞼を開いて見上げる。ここには俺しかいなかったはずなのに、いつの間にか、
「……?」
 濃紺色のセーラー服姿の女の子が立っていた。高校生ぐらいに見える。綺麗な顔立ちをしている。
 女の子の背はわりと高い。デジモンの姿の俺が小さいから余計に大きく見える。長い金髪は耳の後ろ辺りから三編みにしている。左右の髪を二本に結ったそれを、左右の肩から前に垂らしている。
 赤茶色のフレームの眼鏡は少しレンズが厚い。目はあまり良くないみたいだ。そのレンズの向こうで、澄んだ瞳が静かに俺を見つめる。
 誰だ?と思うのに、その疑問を無視するように俺は、
「貴女のことです」
 と、言った。口が勝手に言い、自然に俺は両手を差し延べる。
 ――え?
 いつの間にか、メタルクローもサイコブラスターも消えていた。俺は自分の両手の変化に気付き慌てた。
「どうしてっ?」
 手の平、手の甲と何度かひっくり返して見る。今まで生きてきたけれど、ノーマルのハンドパーツを装着したことは装備品の点検の時や、他の限られた時だけだったのに……?
「私のこと? 本当に今、私のことを考えてくれているのね? 嬉しい……」
 女の子はスカートのプリーツが乱れないように気をつけながら、俺に向き合うようにしゃがみ込む。
「私のこと、迷惑じゃない? 嫌いじゃない?」
「そんなことないですっ!」
「だって私……貴方を追いかけたから……」
「嫌いになんかなるもんかっ!」
 女の子は、武器が無い俺の両手を、そっと包み込むように両手で触る。そして、ちょっと残念そうに微笑む。
「でも、嘘つき……」
「え?」
「目が覚めたら傍にいてくれると思っていたのに。嘘つき……」
 俺は女の子を見上げた。
「すみません」
 たくさん困らせた。たくさん悲しませて、たくさん泣かせてしまった……。
「どうして俺のことを追いかけたんです?」
「どうしてって?」
「そこまでの存在価値が俺にあるとは思えない。俺はサイテーな奴ですから」
 女の子はちょっと怒った顔をする。
「どうしてそんなこと言うの? 私の見る目がないって言いたいの?」
「申し訳ないけれど俺はそう思います」
「ちょ……本気で言っているの? どうしてっ?」
「俺にはそんな価値なんてない。貴女の傍にいることを許されるわけがない……」
「え……」
 女の子は驚いた顔をして、すぐに、はしゃいだ顔をする。
「わぁ! それって……一緒にいたいって思う? そうなの?」
 俺は憮然とした。
「思いますよ! 当然じゃないですかっ! 俺は貴女の傍にいたいんだ!」
「本当? ……嬉しい……」
 女の子は恥ずかしそうに呟く。
「嘘じゃないですから! ずっと思っていたんです。もしも全部終わらせることが出来て、それでも貴女の傍にいることが許されるのなら……」
 想いが溢れて、感情が制御出来ない――。
「俺は貴女に――」
 
 
 
 
 
 
「……」
 いつの間にか、視界に映るものが変わっていた。
「…………」
 それらを一つずつ認識して、
「……?」
 ここが清潔な病室だと、ふと気付いた。特別治療室らしい。
 俺は奇妙なものの上に座っていた。デジタマ用保温器だと、何となく気付く。何回か見たことはある。
「……」
 『受け皿』と戦ったことは覚えている。けれど……?
「……?」
 一番最後には、確か……留姫さんがいたことを覚えている。
 俺はどうやらデジタマの状態で救い出されたみたいだ。でも、いったい誰が? どうやって? それに、今はあれからどれぐらい時間が経っている?
「……はぁ」
 俺は溜息をついた。
 そして今は――デジタマから完全体のメタルマメモンの姿まで瞬時に進化したのか? 何があっても戦い続けるようにプログラムを書き換えてはいたけれど……。
 自分の体の損傷具合も、見ればあまりにも無残なものだった。生身の人間で言えばスプラッタな状態。
「これじゃあ、なっ」
 鉄屑の集合体に近い自分に呆れる。すぐに予備パーツの手配をしてもらわないと、ロゼモンさんの前に出られない。もしもこの姿を見たら、優しいロゼモンさんはきっと悲しんでしまうだろう……。
 予備パーツの在庫が足りなければデジタルワールドから取り寄せなければならない。いやいっそのこと、デジタルワールドに俺ごと運んでもらった方が早い。
 ――ひとまず、ここから降りようっと……。
 デジタマ用保温器の上にいつまでも乗っかっているのは恥ずかしいので降りようとした。
「……あ、れ?」
 足のパーツが欠けていて、油圧も破壊されている。立ち上がることが出来ない。仕方ないので体を倒し、半ば転がるようにそこから降りようとして、
「――うわぁぁぁっ」
 デジタマ用保温器どころか、台の下の床に落下した!
「いってぇ……」
 ひどく痛い。病室内にも派手な音が響いた。誰か気付いてこちらに来るかもしれないと思うけれど、もしもこの部屋が防音に優れているなら来ないかもしれない。
 立ち上がろうにも、腕が無い。夢の中ではノーマルのハンドパーツを装着していたけれど、今はサイコブラスターもメタルクローも無く、千切れた断面が生々しい。シールド線からむき出した金属線がぼさぼさしていて、とてもみっともない。
 ――とにかくこの姿をなんとかして、それからロゼモンさんに会いに行こう。きちんと自分の気持ちを話して、そして……言おう。とにかく、言おう。素直に伝えて、指輪のサイズとかちゃんと……。
 ――ゆ、指輪って……。
 俺は考えているうちに、無性に恥ずかしくなった。実際、今の俺がロゼモンさんにプロポーズとかしても許されるはずないんだろうけれど、でも言いたい。今しかない! ロゼモンさんの家族には反対されるだろうけれど、どんなに時間がかかっても許してもらうまで、俺は何でもする!
 ――まさか、ロゼモンさんから断られることって……あるか?
 ロゼモンさんがピアスを外していたことを思い出して我に返った。けれど、その不安を蹴散らすように心の中で叫ぶ。
 ――嫌われたなら! また好きになってもらうしかないじゃないかっ!
 デジタマから孵って真っ先に夢に見たのは、ロゼモンさんだった。会ったことはもちろん無いけれど、子供の頃のロゼモンさん……きっとザッソーモンの事件の頃の姿に間違いないと思う。
 夢の中で言おうとした言葉を言いたい。俺は夢の中でしかああいう言葉を言えないような、意気地無しじゃないっ!
「でも、今の姿じゃ意気地無しもへったくれもないよな……」
 仕方なく、ナースコールのボタンを探した。けれども見当たらない。
「……まさかと思うけれど……」
 俺は、今さっきまでいた台を見上げた。
 ――あの台の上にあったのか!? マジかよっ?
 今となっては、どうあがいてもあの上には戻れない。不可能だ。
「クソッ!」
 悔しくて堪らない。無力過ぎることが歯痒い――。


「――!?」


 『何か』に気付き、大声を上げそうになった。
「な……ん……だ……?」
 俺のすぐ近くに大きなダンボール箱がある。その箱からごそごそと音が聞こえる。
 ――何だ? 何かそこにいるのか?
 気付かなかった。どうやらセンサー系統が全く使い物にならないほど壊れているらしい。
「……」
 ごくり、と俺は唾を飲み込んだ。ダンボール箱の中に、未知の『何か』がいる! 今、身動きが取れないのに、『何か』が危険なものだったらどうすればいいんだ――!
 体に悪寒が走る。ダンボール箱の中から聞こえるごそごそと言う音は、まだ聞こえる。
「本当に、な……何かいるのか?」
 声をかけてみた。完全に上ずった情けない声になってしまった。
 ぴたり、と、ダンボール箱の中から聞こえるゴソゴソ音が止まった。
 ――何だっっっ?
 俺の声が判別出来るのか? デジモンか? 獣か? ああっ、どーして俺のセンサー系統壊れてるんだっ、ちくしょー!
 突然、ダンボール箱のふたが開いた。
「――――!」
 俺は息を飲んだ。


「ポ、プゥゥ〜」


 ――は?
 かわいい鳴き声がした。どうやら欠伸……らしい?
 中からひょこんと、大きな双葉が覗いた。続いて、よいしょ、と何かが出ようとした。が、
「プッ! プップポゥ! ププッ……」
 なかなか出られないようで、じたばたと動いている。
 ――何だ? デジモンなのかっ?
 そのじたばたと動く緑の双葉は、やがて、ぐらぐらとダンボールを揺らしてバンッと倒すと、
「プ……プゥゥッ」
 と呻き声を上げた。突然ダンボールが倒れたのでどこか打ったらしい。
「……双葉?」
 俺はダンボール箱から這い出てきたデジモンを凝視した。小さいデジモンだ。小さいと言っても、俺に比べたら一回り小さいぐらいの大きさだけれど。
 ころんとした球根から大きな双葉が生えているような姿。ぷにっと生えた前足と後ろ足。緑色のそのデジモンはどうやら額を打ったらしく、おでこが赤くなっている。
 涙ぐんでいたそのデジモンは俺を見るなり、
「プ……プゥルルッ!!」
 とても驚いた顔をした。大きな瞳が可愛らしい。すごく……すごく可愛いっ!
 ――ど、ど……どちらのお嬢さんですかっ?
 俺はドキドキしながら愛らしいそのデジモンに、
「あ……あの……えっと……」
 と声をかけ、ふと、
「あ……れ?」
 緑の双葉についているものに気付いた。


 ――え? ピアス? あの……そのピアスって? まさか?


「えええっ! ロゼモンさん? 退化したんですかっ!」
 と驚く俺に、そのデジモンは
「プ〜プゥ!」
 と鳴き声を上げて俺に向かってダッシュで飛びかかった!
「うわっ!」
 身動き出来ない俺はされるがままに……激しく頬擦りされた!
「わ、あの……ちょ、ちょっとま……っ」
 ぎゅうぎゅうとかわいい姿に擦り寄られて慌てる。
「ダメですからっ! アンタ、アホですかっ! ケガするじゃないですか!」
 破壊された金属部品むき出しの俺の体で、裂傷でも作ったらどうするつもりだっ!
 ようやく俺から離れてくれたけれど、その可愛い姿には切り傷がたくさんついてしまっている。血が滲んでとても痛そうなのに、その小さいデジモンは泣き笑いの顔で俺の名前を呼ぶ。
「プゥプゥルッ!」
 俺は泣きそうになる。
 ――そんなに俺を好きでいてくれるんですか? どうして?
 泣くのを我慢した。泣くなんて――男らしくないから。
「ナースコールを押してもらえますか? 予備パーツなどに交換すれば、貴女がケガをしないで済むでしょう?」
 その小さいデジモンは、とても良いことを聞いた!というような嬉しそうな表情で頷き、さっき入っていたダンボール箱を、双葉を使って器用に持ち上げて運んできた。ひっくり返すと、その上に乗り、そして台の上にジャンプする。ナースコールを押すと、俺のいる床の上に一跳びで戻ってきた。ころんとした姿なのに行動は素早い。
「ありがとう。ええと……ロゼモンさんって呼べないですよね。今の姿は?」
「ププッ」
 可愛い声が教えてくれた名前を、俺は言った。
「タネモン……さん?」
「プゥッ!?(ええ、そうよ!)」
 タネモンさんはとても驚いている。
「当たりですね?」
「プププゥルウ!(どうして解るの?)」
「どうして?って……どうしてか解りませんけれど……」
 やはり、なぜか俺にはタネモンさんが言うことが理解出来ている。
「変だな……幼年期・球根型デジモンの言葉の翻訳ソフトなんてインストールしていなかったけれど、貴女の言葉は解ります。仕草でだいたいのことはもちろん解りますけれど、不思議ですね……」
 そう言うと、タネモンさんはパァッと満面の笑みを浮かべた。
「そんなに嬉しいですか?」
「ププルッ!(ええ、すっごく嬉しいわ! わーいっ!)」
「そうですか? 俺も……嬉しいです」
「プ?(メタルマメモンも嬉しいの?)」
「貴女のことをちょっとだけ、他の誰かより解っているのは……優越感というか、その……」
 言いながら、恥ずかしくなって言葉が途切れた。
 タネモンさんは頬を染めて
「プゥー!(キャーッ! やだーっ! メタルマメモンってばー!)」
 と照れている。
 ――やっぱり、貴女が大好きです。俺は貴女が楽しそうに話して、笑って、俺に微笑んでくれるだけでこんなに幸せになるんです……。
「あの……タネモンさん」
「プ?(なぁに?)」
「お願いがあります」
「ププルッ!(何でも言って! 頑張るわ、私っ!)」
「あの、いえ……ちょっと聞いて欲しいんです」
「プ?(え? 改まった話?)」
「はい」
「ププッ!(メタルマメモンッたら! そういう話はもっと元気になってからよっ!)」
「え?」
「ププ!(また難しい話をしようとしているんでしょう!)」
「はぁ? それは、その……難しい話かもしれませんけれど。でも……」
「ププゥプ!(とにかく、ダメッ! 今は元気になることがとーっても大事なの!)」
 プンプン怒り始めたけれど、そんな姿もタネモンさんはすごく可愛い。
 ――せめて今、俺が人間の姿なら、その双葉撫でたいのに……! 頬も触りたいのにっ……!
「あの、じゃあ……せめて一つだけ、質問してもいいですか?」
 俺はタネモンさんに微笑みかける。
「プゥ?(質問? ええ? 良いけれど?)」
 タネモンさんは俺を見つめる。不思議そうな顔をする。
「プル?(どんな質問? 他の皆のこと?)」
「いいえ」
「プゥ?(何? もったいぶるようなこと? 難しい質問?)」
「ええ。俺は知らないので……」
「プ?(私は知っていること?)」
「はい。もちろん今知らなくても、後から測ってもらえれば……」
「ププ?(測る?)」
「……あの、」
「プ?(ん?)」
 俺は覚悟を決めて言った。
「左手の薬指のサイズを教えて下さいっ!」
「ピ……ッ!(……っ!)」
 けれど覚悟を決めたわりに、俺は恥ずかしくなって即座に俯いた。
「あ…の……、突然こんな質問をしてしまってすみません……。もちろん、今の俺が言えることじゃないことは百も千も承知しています。けれど、俺はっ! 俺は……ああ、すみません。こういうことってちゃんと顔見て言わなくちゃいけませんよね?」
 俯いていたらダメだと思った。
「ちゃんと相手の目を見て話さないとダメですよね。すみません……俺が真剣に考えていること、タネモンさんに伝わらな……い? あれ? ……タネモンさん? タネモンさんっ!」
 顔を上げたら、タネモンさんが仰向けに引っくり返って倒れていた!
「ちょ、ちょっと! タネモンさんっ!」
 タネモンさんは気を失ってしまったらしい。
 突然、ドアが開いた。
「失礼します」
 医療スタッフらしきスワンモンが来た。
「ちょうど良かった! タネモンさんが驚いて気絶してしまって……」
 俺が言うと、
「え? まあ、大変!」
 スワンモンはタネモンさんを抱え起こすと、その顔が傷だらけなのを見てちょっと驚き、そして苦笑した。
「大好きな彼がデジタマから孵ったから、はしゃぎ過ぎてしまったのかしら?」
「いえ、そんな……」
 そんなことを言われて俺は赤面した。
「貴方がデジタマの状態の時、ずっと世話をしていたのよ」
「ずっと?」
「ウイルスのことで医療スタッフの手が足りなくて、ご家族の協力が必要だったの」
「ご家族って……違います! 違いますからっ!」
「あら? いずれそうなるんでしょう?」
「〜〜〜〜からかわないで下さいったら!」
「まあ、うふふっ」
 スワンモンはさっと厚手のタオルなどを用意して、タネモンさんの入っていたダンボール箱を整える。顔の細かい傷を消毒し、その中にタネモンさんを移した。
「ところで、どうしてダンボール箱なんです?」
「球根型デジモンの習性で、暗いところじゃないと良く眠れないのよ」
「そうなんですか?」
「ええ。貴方のケガもすぐに治療しましょうね」
 スワンモンはサイボーグ型デジモン専門の医療スタッフをすぐに連れてきてくれるという。
 スワンモンが部屋から出て行ってから、俺はダンボール箱にそっと寄りかかる。
 デジタマの状態の時にそんなに一生懸命世話をしてもらっていたなんて……恥ずかしいけれど嬉しい。
 サイボーグ型デジモン専門の医療スタッフが来て、俺はすぐに治療室へ運ばれた。アンティラモンさんとベルゼブモン先輩が話してくれていたみたいで、交換が必要なパーツ、修理すべき箇所の情報はすでに伝わっていた。
 そして驚いたのは、ここがデジタルワールドだということ。デジタルワールドではあれからすでに一カ月半が経過していること!
 ――姉上が目覚めているそうだから、お見舞いに行かなければ。ファントモンはどうしているだろう? それに乳母やが復活しているとは……。
 気になることが多いが、とにかく治療が先だ。念のためX線検査などを受けてから、すぐに治療が開始された。
 麻酔を施された。俺の戦闘能力が高いので、痛みで暴れた時に医療スタッフがケガをしないように、だ……。



 数時間は経ったのかもしれない。
「……」
 気付くと俺は元の病室にいた。デジタマ用保温器の上では無く、サイボーグ型デジモンが通常使う、金属製のベッドの上だった。
 ――これ、嫌いなのに……。
 病室だからそんなことを言ってはいられない。それよりも、
 ――嘘だろぉぉぉっ!
 『彼ら』の存在に気付き、心の中で絶叫した。
「いつ、いらっしゃったんですか……!」
 俺は即座に起き上がった。
「いや、いいから!」
「私達にはお構いなく、どうぞお休みになっていて下さい!」
 彼らは丸イスから腰を浮かした。人間の姿の二人のデジモンは、ひどく慌てている。
 俺は無理に起き上がると、
「そういうわけにはいきません。――誠に恐縮に思います。このような所までお越しいただいて……」
 ベッドの上で正座して深く頭を下げた。
「このたびは己の身勝手のために大変なご心配とご迷惑をおかけ致しました。
 何より、貴方方の大切なタネモンさんをこのような大変な事件に巻き込み、命を危険に晒すようなこともたびたび起きてしまいました。
 こちらから真っ先にお伺いしてお詫び申し上げるところを、先にお越しいただいてしまい、重ね重ね申し上げる言葉も尽きるほどです……。深く、深く……お詫び申し上げます。大変申し訳ありません――」
 必死に頭を下げた。途中、何をどう言っていいのか解らなくなりそうになり、それでも必死に自分に言い聞かせる。――しっかりしろ、と!
 背中に冷や汗が流れる。膝が震えそうになる。
 ――どうしてタネモンさんの両親がここに来たんだ! 連れ戻すつもりなのか!?
 眩暈がしそうなほど、俺は混乱した。

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