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恋の行方は(財前)
バタンというドア二つの音が鳴り出すと心臓が一倍と大きく鳴り後ろを振り向くとそこには光がいた。


最悪だ、最悪だ、呪文のように心の中で唱えると自分の顔の血が引くのがわかる。光と同時刻に登校だなんて、いつぶりなんだろう。後ろに気配を感じるだけで背中が焦げそうだ。



彼とは幼なじみだった。だった、という過去形に胸を痛める。小学生の頃は兄妹のように仲良かったというのに中学に上がる頃、光はピアスの穴をブチブチと開け、私の知らない男となっていた。
 それでも光は光だと思っていた私は中学1年生の春、クラスが決まって光に会いに行ったところ「キモイ」と睨まれ無視され、それから私たちは一切関わることはなくなっていた。
 私は光がこわくなった。数え切れない彼女がいて、テニス部へ入る途端彼への人気も高まり、私から遠い人となった。ああそうか、彼は幼なじみである私が恥ずかしいと、そう思った私は光に極力会わないように避け続けた。


 だから今のは例外だ。普段同じ時間帯に登校だなんて全くありえないことだった。最悪だ、最悪だ、後ろにいる男となった彼の歩幅は女の私のより広く、二人の影はもう少しで近づきそうだ。そして恐ろしい気持ちと私の歩幅は比例し気づけば段々と小走りになっていた。


 ゴッツンと嫌な音がする前に身体が数秒間という長い間宙返ったのを覚える。地面と仲良くキスしている私の顔は自分でもわかるくらい気持ち悪い顔をしている。スカートの中のものは強制見せ物となっていて予想通り小さな笑い声たちが聞こえた。それも後ろにいる男の嘲笑を含めて。

早く立ち上がっていればいいものの、身体が言うことが聞かないらしい。穴があったら入りたい。もういっそ私を埋めてくれ。そう懇願しつづけても身体は動かなかった。


 と、その瞬間、本日二度目に身体が宙返った。のは、私の身体をがっしりと掴んでいる腕があったからだ。恐る恐る顔を上げると、なんと学校1モテモテの白石先輩が私をお姫様抱っこをしていたのだった。

ひぃっと声を上げた私に「俺、保健委員やねん、保健室行こか」と彼は爽やかに言った。周りの視線が痛くて一人で歩けますと嫌がってみると「すぐそこやからええよ」と拒否された。


 そして手慣れたように優しい笑みで「俺に任しとき」と言ったのだった。私は、あの男の歪んでいる顔も知らずに、この人に、一瞬だけときめてしまった。




















.財前

うしろまえ

あきゅろす。
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