ホワイトデー2011
「ほわいとでい?」
不思議そうに手の中の包みを眺めながらルキアはたどたどしい発音で言った。
「そう。ホワイトデー。バレンタインのお返しする日」
本日、たった今3月14日へと日付は変わり、自室でごろごろと睡眠時間を迎えようとしていた俺はその瞬間を狙ってそのメルヘンチックな包みをルキアに渡した。
内容物はなんと数量限定のチャッピー目覚まし。
これを手に入れるためにわざわざ尸魂界まで行ってたとか現地の通貨を手に入れるために散々苦労したとか某隊長と副隊長の妨害工作突破に必死だったとか絶対バレたくない。
包みを開いたルキアは期待通りに狂喜乱舞している。
苦労した甲斐はあった、と俺は内心大満足。
「こんなに良い物を貰っていいのか?」
ひとしきり喜んだ後、ルキアは申し訳なさそうに俺を見上げる。
「私は、その…あんなものしか…」
あんなもの、というのは、規格外な不味さの手作り生チョコ。
まぁたしかに一般的には「あんなもの」かもしんねぇけど。
「気持ちの問題だからいーんだよ」
べつにそれも大したもんじゃないし、と格好つけて布団にもぐる。
「もー遅いから寝るぞ」
あんまり喜ぶもんだから、照れくさくなってルキアを追い払う。
「とっとと部屋戻って寝ろ」
電気は消していけよ、と布団からひらひらと手を振ると、パチンと電源が切れる音がして室内が暗くなる。
息を吐いて目を閉じると、背後からするりと手が伸びて体を包んだ。
「うお!?」
予想外の出来事に間抜けな声をあげて飛び起きる。
「なにやってんだてめぇ!」
「なに、って。一緒に寝ようかと」
「普通に答えんな。馬鹿言ってないで部屋もどれよ」
じゃないと、明日、夏梨と遊子に散々言われるんだよ。ドスケベって。
「…どうも一護は私と寝台を共にするのが好きでないようだな」
暗がりの中でルキアの不機嫌そうな声が室内に響く。
いや、そんな事はない。
むしろ大好きです。
でも家族への体裁ってのがあるんだよ。一応。
ルキアが妹達の部屋に戻らない数だけ、俺のドスケベ度数が上がっていく。兄の沽券に関わる。これは由々しい。
ちなみに前回は3日前。もうちょっと冷却期間おかないと不味い。
「そんなんじゃねぇから。今日はチャッピー抱えて部屋で寝ろよ」
な?と頭を撫でたけど、ルキアは納得してない様子。
「だめだ」
「何が」
「貰いすぎた分を返す」
「は?」
ルキアはチャッピー時計を枕元に置くと、よいしょと俺の上に跨った。
「…おいおい」
「あのチョコに対してこのチャッピー時計は釣り合わない。貰いすぎだ。だから、貰いすぎたぶんを返そう」
なんだその理論。
つーかホワイトデーは3倍返しが相場らしいから別にそんなの気にして頂かなくて結構なんですけど。
けど。
ちゅ、と音を立てて唇が吸われ、ルキアの手が俺に触れた瞬間、色んな事がどうでもよくなった。
ホワイトデー万歳。
いつになくいやらしく積極的なルキアの「お返し返し」に、俺の頭の中には歓びの鐘が鳴り響いた。
次の朝、ぴょんぴょん鳴るチャッピー時計に起こされ、文字通り気持ちよく目を覚ますと、機嫌のよさそうなルキアが腕の中で俺に擦り寄りながら「そうだ」と顔を上げる。
「そういえば、ばれんたいんにチョコをくれた輩にはお返しをせねばなるまい」
…余計な事に気づきやがって…。
内心舌打ちしながら、「別にいいんじゃねぇの」と素っ気無く返す。
ルキアは案の定「いやいや」と首を振った。
「頂いたままと言うのは良くない。…しかし困ったな…そんな制度とは知らなかったから用意がない」
うーん、と考え込んだルキアは「肩たたき券というのはどうだろう」と素っ頓狂な事を言い出す。
「ダメだ」
即効却下。
「えぇー」
えぇー、じゃねぇ。他の男の肩叩かせるわけにいくか。しかも絶対5枚綴りとかそんなん作る気だろ。断固阻止。
「しかし買うにしても3人ぶんとなるとなぁ…」
…俺が見た以外にも2人居やがったか。まったく油断ならねぇな空座高校。
「浦原のところでツケてもらうか…あ、今度こそちゃんとした菓子を作ってみるか?…いやしかし時間が…」
「学校行く途中のコンビニでいいだろ。俺が買う」
ルキアが選んでルキアが買ったものを渡されるのはなんかイヤだ。手作りなんかもってのほか。
「え?しかし一護が買ったのでは意味がないのでは…」
「おまえが渡せばそんでいいだろ。誰が買ったモンだってわかんねぇよ」
「ぬぅー」
「支払いはルキアの身体で」
「何!?」
「今日は何してくれるのかなー。楽しみだなー」
真っ赤になったルキアをベッドに残して制服に袖を通す。
俺の要求にまんざらでもない様子で「調子にのりおって」と口を尖らせるルキアが可愛いから、妹たちの評判が下がってももういいか、と俺はこっそり笑った。
FIN
井上さんにはおもしろ駄菓子セットを先日のステンレス製弁当箱に詰めてお返ししています(笑)
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