黒崎遊子の見解
私はお兄ちゃんがすごく好きで、それはお父さんも夏梨ちゃんも同じで、お兄ちゃんの友達もみんなお兄ちゃんが好きで、
でも残念な事にお兄ちゃんは全然そういうの受け流しちゃってて。
キョーミないぜ、みたいなアッサリした態度。
そりゃ実際何かあったら、飛んできて全力で助けてくれるのは知ってるけど。
普段から、もうちょっと愛情表現みたいなのがあってもいいと思うの。
夏梨ちゃんにそう言ったら「いい加減夢みたいな事言うのヤメなよ、いい大人なんだから」って諭されちゃったし。
大人でも子供でも、気持ちを表現することは大切だと思うよ?
お父さんは一応イイ年の大人だけどあんなにストレートじゃない?
どうしてそれは受け継がれなかったんだろ。不思議。
あんなんじゃ、彼女ができてもすぐ愛想つかされちゃうよ。
私だったら不安でたまらないと思うな。
もしそうなったら、私たちがフォローしてあげなくちゃね。
そんな事を考えてた過去の自分にちょっぴり同情。
夕食の仕度をしながら見るリビングの光景にこっそり苦笑い。
「…見てらんない…」
キッチンカウンターの前に座って小声でつぶやく夏梨ちゃんの気持ちもわからなくはないかな。
「む?おい一護、あのドンなんとかの番組が復活しておるぞ」
「マジ?…うっわ…懲りねぇなぁあのオッサン…むしろ尊敬?」
リビングでテレビを見ながら罪のない会話をしてるのは、お兄ちゃんとルキアちゃん。
ルキアちゃんがなんでウチに居候するようになったのかは…もうよく覚えてない。確か何か盗られたとかなんとか…
でも今はそんなのはどうでもよくて。
会話には罪はないけど、その2人の様子は小学生には目の毒。
さっきからずっとルキアちゃんの膝に頭を乗せたまま雑誌読んだり、テレビみて番組内容に突っ込んでみたり。
そうかと思えば、おせんべいを齧ってるルキアちゃんに「上から粉が落ちてくる」と文句を言いながらくすぐってみたり、ほっぺについたカスを取って笑ってみたり。
つまりお兄ちゃんは私が思ってたよりずっとお父さんの血を引いてるってこと。
「ねぇちょっと、いい加減にしてくんない?」
ついにソファーの前で夏梨ちゃんが仁王立ち。
「あ?なんだよ」
「どうした?夏梨」
2人してキョトンと夏梨ちゃんを見上げる。
お兄ちゃんは断固としてルキアちゃんにべったり膝枕のままですけどね。
「さっきから黙ってりゃイチャイチャイチャイチャ…部屋でやってくんないかな!そーゆーの!」
恥ずかしくて見てらんないんですけど!と言う夏梨ちゃんの抗議は2人にはイマイチ伝わってないみたい。
「…何が?普通だろ?」
うん、それはどうかなぁ。
「…言ってる傍から足撫でるなエロ兄貴!」
「エロ言うな!細かい事にいちいちうるせぇぞ!」
「細かくない!ってかルキアちゃんもなんか言ってやんなよこのドスケベに!」
「いや、もう、なんていうか、今さら…」
「今さらとかドスケベとか言うな!おまえらちょっと酷くねぇ?普通のコミュニケーションだろ!スキンシップだろ!変態扱いされる覚えはねぇぞ!?」
「いや、変態とは言ってないけど…」
あーあ、ついにお兄ちゃん逆切れ?
てゆうか、本気で普通だと思ってるみたい。
確か私の記憶のお兄ちゃんは、もっとクールな人付き合いの仕方をする人だった気がするんだけど…。
ことルキアちゃんに関しては、完全に箍が外れてる。なんでだろ。
「ふふふ…一護め…見事この父の英才教育が効いておるな…」
「あれ?お父さん?」
いつの間に。
「シッ!静かに!」
「な、なんで…」
「一護のヤツ、俺が近づくと過剰にルキアちゃんをガードしだすからな…なんとかスキを突いて今日こそは『ただいま』の熱い抱擁を…」
…そんな事言ってるからガード固くなるんじゃないかなぁ…。
「ところでお父さん、さっき英才教育がどうとか…」
「ん?おお、そうよ、この父が男女の愛情のなんたるかを幼い頃の一護に叩き込んでおいたからな!」
…ああ…。
「おはようのキッスからおやすみのキッスまで!仲良き事は美しきかな!!家庭内に於ける愛する者同士の営みをしっかと見せ付けてきたのだ!もちろん夜の営みまではみせてないがな!」
「うるせぇ糞親父!」
「ああっ!しまったバレた!?」
そりゃそんな大声出したらバレるよ…。
「チッ、隙を突くつもりだったがまぁいい!ルキアちゃぁぁぁん!今日こそこの父の胸に飛び込んでおいグフウゥッ!?」
「近寄んなエロ親父」
飛び込んでいったお父さんを足技一発で撃沈。
懲りないなぁ…。
床にめり込んだお父さんを夏梨ちゃんが追い討ちで踏みにじる。
「そうか…アンタのせいか…そういやなんとなく記憶になくもないわ…」
そういわれて、ほんのりと小さかった頃の記憶が蘇る。
確かに、今のお兄ちゃんとルキアちゃんの様子は、あの頃のお父さんとお母さんそのもののような気がする。
「朝から晩までイチャイチャしてたなアンタら…」
壁にかかる巨大な遺影がその過剰な愛を物語ってる。
小さい頃の環境はその後の人生にコレほどまでに影響するものなんだと感慨深い。
「そうとも!既に物心ついてた一護が毎日そんな仲良し夫婦を見てれば刷り込まれるのも当然と言うもの!」
復活したお父さんはがっばぁと2人まとめて腕に抱く。
「さぁ!家族の愛を確かめよーじゃないか!!」
直後、お父さんは、なんだか黒い影を纏うお兄ちゃんにコテンパンにのされてしまったわけだけど。
それから間もなく夕食の準備ができて、食卓を囲む頃には再びいつものドタバタ感。
「父さんはルキアちゃんの横がいいな!」
「いい加減諦めなよ馬鹿親父。また一兄にぶっ飛ばされるよ?」
「愛の鉄拳ならいつでも受けてやるぞ!」
「ああそうかよ」
「ゴフッ!?」
「ああっ!?お父さん!?」
「あーあ、言わんこっちゃない」
「ったく、メシぐらい落ち着いて食えよな」
「よく言うよ、自分だってルキアちゃんにかまってばっかりで落ち着きないじゃん」
「うるせ」
あーあ、もう、ほんとに賑やかだなぁ。
おかずを全部並べ終え、苦笑いでそんな他愛もない言いあいを見ていると、ルキアちゃんが躊躇うように輪の外にいる事に気づいた。
「ルキアちゃん?」
呼ぶと、ハッっとなったように私を見て、ちょっと困ったような顔で微笑んだ。
「どうしたの?」
「…いや、なんでもない」
まだまだ子供の私に、ルキアちゃんのその複雑な心境なんてわかるはずもなくて。
でも、今の私に出来る事はわかる。
「…遊子?」
うやうやしく椅子を引いた私にルキアちゃんは不思議そうな顔。
「どうぞ」
ルキアちゃん、ここはあなたの席です。
手を差し伸べて促すと、ルキアちゃんはみるみるうちに綺麗な笑顔になって、それはとても私を嬉しくさせた。
FIN
→アンケお題「無自覚な馬鹿ップルぶりを黒崎家を絡めて」
コメリクくださった方ありがとうございます!(スライディング土下座)
馬鹿全開にするつもりがなんか最後ちょっといい話になってしまって反省。
結果的にEDの一枚絵がモチーフになってしまって反省。
短かすぎて反省。
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