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すごいよ!コジマさん!


「朽木ルキアです。よろしくお願いします」


その可憐な美少女が齢100を超えるご長寿さんだと知ったのは、それから随分と後の話になるけど、とにかくその石楠花か白百合かという綺麗な転校生は、ある日突然現れて僕のありふれた日常に彩をつけた。

念のため言っとくけど、恋に落ちたワケじゃないよ。

どっちかって言うと、第一印象は「苦手なタイプ」。

だって僕は従順なコは好みじゃないんだ。なんでも「イエス」で言う事きかれちゃ面白味がないでしょ?
「争いごとを好まず三歩下がってついていくお嬢様」って感じの佇まいは僕の射程範囲の遥か外。


それに…なんだか心の奥底が見えない眼差しが、…引き込まれそうなほど深くて怖かったから。





「はぁぁ…あの転校生、かっわいいよなぁ…なんとかお近づきになれんもんかね…」

休憩時間、顎に手をあててケイゴが眉間にシワを寄せる。

「ケイゴ、顔が一護ってる」

「わざとだわざと。似てる?これ」

眉間のシワを指さしてケイゴは得意げ。

「…うーん…ちょっと浅いかな…」

浅野なだけに?

「ん?こうか?これでどうだ?」

顔面に力を入れるケイゴの顔はもう眉間のシワとは関係なく酷い有様になってる。

「…いたたた顔ツった!」

…平和だなぁ…。

ため息をつきながら小型ヘッドホンを耳にあててケイゴの発する雑音を遮断。ついでに横目で転校生を見ると、真剣な顔をして教科書を読みふけってる。

清楚で勤勉なお嬢様、か。興味ないな。


そんな感想が一転するのはそれから間もなく。



「貴様……あなたが黒崎くん?」

まずその転校生が、ためらいもなく一護に声をかけた事にびっくり。

だってそうでしょ?

繰り上がりで一護を知ってるコの中にだって怖がる女の子は多いし、あのちょっと渋い系気取るかっこつけは、いい意味でも悪い意味でも、同年代の女の子から話しかけるにはハードルが高い。

なのに、絵に描いたようなお嬢様タイプの転校生がいきなり「よろしく!」と爽やかに手を差し出したもんだから、実は内心相当おどろいてた。誰も気付かなかったと思うけど。

で、そこから更にびっくり。

一護は差し出された転校生の手を嫌そうに眺めたあと、「ちょっと来い」とか言って連れていっちゃったんだ。

ケイゴも有沢さんたちもかなりきょとんとしてたけど、僕の驚きったらそれどころじゃなかった。

まだ短い付き合いだけど、一護は決して女の子に積極的じゃない。興味ないわけじゃないみたいだけど、そんなこと絶対顔に出さないね。かっこつけたがりだから。まぁ、高校一年なんて、クールぶりたい年頃だよね。そのへんは、子供といえば、子供。

そんな一護が、初対面の女の子をいきなり連れてっちゃうなんて、これはもう事件です。

しかもそのまま結局昼になるまで戻って来なかったし。

うわぁー、なんだろう、一目ぼれ?

いやいやそんな雰囲気じゃなかったなぁ。

ああでも一護は常にしかめっ面だからアレがそういう顔なのかも。

それとも昔の知り合いかな?

でも朽木さんは初対面のような返事してたし。

どうしよう、気になってしかたないよ。

ズバリ聞いてみようか。「どういうご関係?」って。

でも絶対「別に」って返ってくるんだ。それはわかってる。聞くだけ無駄。

それに、あっさり解決しちゃうより、この状況を楽しみたい。


趣味が悪い?今更だね。




それからの数日、注目して見る2人は、気がつけばいつも隣同士に居る気がした。

それはあまりにもさりげなすぎて、うっかりしてると見落としてしまうくらい。

そして注目しているからこそ、気づく変化があるわけで。


「一護ってさ、朽木さん見る目ちがくない?」

朽木さんが転校してきてから二ヶ月ほど経ったある晴れた日の登校時間、思い切って直球を放り投げた僕に一護が固まる。

「…言ってる意味がわかりませんけど…」

あれ?なんだか焦ってる。

思ったより良いリアクションが返ってきて、急にいたずら心が騒ぎ出した。

「なんか、すごーく優しい目で見てるよね。朽木さんのこと」

敢えて一護がイヤがりそうな単語を選んで言うと、案の定の好反応。

「…見てねぇよ…何言ってんだオマエ。わけわかんねぇぞ」

視線は泳いで挙動不審。落ち着かない様子で頭を掻いてる。これはヒットの証。

ああどうしよう、ものすごく楽しい。

「そうかな?一護が有沢さんと井上さん以外の女子とまともに喋るのなんて滅多ないのに、朽木さんとは仲いいじゃん」

「そんなことねぇよ。席が隣だから、たまたまそう見えるだけだろ」

「でも昼もけっこう一緒してるよね」

「だから隣のよしみだよ」

逃げる一護、追いかける僕。

「じゃぁ、こないだ屋上でなんかイイ感じになってたのは?」

「は!?」

「何言ってるのかまでは聞こえなかったんだけどさー、なんか隅っこで2人でこそこそ話してたでしょ」

「…気のせいじゃねぇの…?」

「それにコンビニおにぎりの開けてあげてたでしょ?あとサンドイッチとかチルドカップのジュースとかも」

「てめぇ見すぎだろ!」

「一護がやりすぎなんだよ」

「仕方ねぇだろアイツなんも知らねぇんだから!」

「黒崎くん!小島くん!おはよう!」

おっと、噂をすれば。

「おはよ、朽木さん」

丁度校門のところで渦中の人物が近寄ってきた。

「あら、黒崎くんはどうしたのかしら?随分機嫌が悪そう」

小首をかしげる仕草は小悪魔的。

朽木女史は、僕の想像よりも遥かに色んな表情を見せてくれる。
最初の認識よりもかなり奥深い人物らしい。僕もまだまだだね。

それはともかく、丁度いいから悪乗りしちゃおう。

「うん、一護は朽木さんが好きなんじゃないのって聞いてたとこ」
「うぉいっっ!」

大慌ての一護が僕の肩を強かに掴む。

振り返りながら、追い討ちをかけようと口を開きかけたところで思わず言葉は止まった。

うん

予想外の更に外だ。



…一護が赤くなるなんて。



仕掛けておきながら動揺した僕は繋ぐ言葉を飲み込んだ。

これはアレだね。


…イジってはいけない、男の純情。


僕だって最低限のマナーぐらいは護れるよ。

朽木さんは意味がよくわかってないみたいでキョトンとしてるし。

「黒崎くんが、私を?」
「違うぞ朽木!水色が勝手に言ってるだけだかんな!」

あたふたと言い訳する一護には、いつものかっこつけなんて欠片も残ってない。完全に恋する純情少年だ。

僕はバレないように声を出さずに噴出した。

…面白すぎる。

とは言っても僕も鬼じゃないからさ、代弁告白みたいな酷い真似はしないよ。

だけどちょっとからかったってバチはあたんないよね?

「でもさー噂になってるよ?2人は付き合ってるんじゃないかって。そのへんどうなの?朽木さん」

朗らかに朽木さんに問いかけると、横から一護が割り込んでくる。

「付き合ってねぇよ!テメわかって言ってるだろ!」

まぁね。

「そりゃ僕もまさかとは思うけどさぁ…ほら、一護こないだ自分でも言ってたでしょ?校内で色々噂になってる、って」

色々、に力を込めて言う。

それはつまり、してるとかしてないとか、そういう意味。まぁその噂の発信源は僕だけど。

「火の無いところに煙は立たないって言うし」

煙焚いてるのは僕だけど。

「〜〜〜」

一護はなんとも言えない顔で視線を逸らした。

焦ってる焦ってる。

無理だよ、一護の性格じゃぁそんな立派な言い訳は考えつかないって。

言葉の魔術には僕に一日の長があるからね。

そんな僕らを不思議そうに眺めた朽木さんはくすくすと笑った。

「よくわかりませんけど、楽しそうですわ」

その表情にドキリとする。

憧れの篭ったどこか寂しげなその微笑は、なんだか見覚えのあるような錯覚。

なんだっけ、どこかで、僕は、あんな表情を

「おっはよーっす!」

繋がりかけた記憶がケイゴのやかましい声で遮断される。

一旦かき消されたそれは意識しても戻ってくることはなく、もどかしい気持ちを抱えながら僕はケイゴに八つ当たり(無視)した。




「えーと、それでですね…小島サン…」

今日一日色々と心労の重なったケイゴは(僕に無視されたり昼休みに石田くんの前で漫談やらされたり)いささか疲れた様子で僕の前にチケットを差し出す。

「なんと言いますかその、映画のタダ券が少々手に入りまして…よろしければご一緒しないか、と…」

差し出されたそれは今話題のアクション映画の鑑賞券。結構話題になってるやつだ。

悪いけど僕、マリエさんと試写観ちゃったんだよね。興味なし。

そう言おうとして、ふといい考えが浮かんだ。

これ、アクションが売りだけど、確か主人公とヒロインのラブストーリーもかなり濃厚でR指定ギリギリだったんだよね。
話題になってる一因がそれ。

ここはぜひとも、一護に朝からかったお詫びをしようじゃありませんか。


「は?映画?」

「そう。ケイゴがタダ券貰ったんだって。帰り見に行こうよ。朽木さんも」

期待に背かず、放課後も一緒に居た2人を捕まえて早速ハメ…いやお誘い。

「…どんなんだよ」

「うん、結構話題になってるやつだよ。スパイヒーローのアクション映画」

「アクションかぁ…」

「あ、でも結構ストーリーもしっかりしてるらしいよ。ほら、この監督、一護けっこう好きじゃなかったっけ?」

「そうだっけ?」

「ほらアレだよ。ばっどしーるどってゆー映画と監督も脚本家も同じ」

嘘だけど。

「あー。アレか。あれは確かに面白かったなぁ」

「でしょ?タダなんだし行こうよ」

ケイゴが後ろで「そうそう!」とはしゃいでる。一護に構って貰える(かもしれない)のが嬉しくて仕方ない様子。

僕達の会話に取り残されながらも興味津々な表情で聞いてる朽木さんにも「ね?」と笑顔を向ける。

「でも、あの…私がご一緒しても大丈夫なのかしら…」

困ったように頬に手を当てた朽木さんが上目遣いにこちらを見上げる。

わぁ、可愛い。

普通はこんな上目遣い、媚びた狙いか計算としか思えないけど、これは完全に無自覚だね。井上さんと同種かぁ。

でも井上さんより小っちゃくて華奢だし、妙な色気があるよね。これじゃ一護もやられるワケだ。納得。

「ああああったりまえじゃないですか!ぜひご一緒しましょう!してください!!」

土下座の勢いのケイゴが朽木さんの両手を掴んで熱烈勧誘。

ああ…ケイゴ、一護が睨んでるよ。いつも目つき悪いからわかりづらいけど、今確実にキミは視線で殺されかけてるよケイゴ。

「朽木さんと映画をご一緒できるなんて夢のようだ!」
「…あーうぜぇ!!」
「ぐほぁっ!?なぜ一護が!?」

そりゃぁ、ヤキモチってやつですよ、浅野さん。キミはもう少し男女の機微を勉強したほうがいいね。

結局、乗り気の朽木さんと暑苦しいケイゴに引きずられて渋々ながらも一護を連れてく事に成功。僕は内心ガッツポーズ。

さぁて楽しい映画鑑賞の始まり始まり。





「…」

「…」

「…」

「いやぁー、面白かったねぇ!」

気まずそうに俯く三人と裏腹に超ご機嫌な僕。

「いや…なんつぅか…水色?あれは高校生が観ていい部類なのか…?」

完全に目が泳いでるケイゴが自問自答のように言う。

「一応、R指定はないからねぇ。演出とか音声は悩ましいけど、画像上に問題ないから、指定は入らなかったみたい」

「いや…しかしちょっと…」

もじもじとケイゴが指を付き合わせる横で一護と朽木さんは無言。

意識してか無意識か、お互い反対方向に視線を流している。なんて期待通りなんだろう。

上映中もことごとく僕の期待を裏切らないリアクションだった。

色っぽいシーンやヒロインの喘ぎ声に、朽木さんは口を開けて驚愕、一護は直視できずに口に手をあてて下向き。

そのうちチラリとお互いを盗み見ては視線が合うと慌てて目を逸らすという少女マンガぶり。

もう、笑い堪えるのにどれだけ大変だったかわかるかな。

未だ気まずさの抜けきらない一護は盛大にため息。若干、抗議の視線で僕を見てる気がするけど、気のせいだよね。

こーゆーことに疎そうなキミたちに発破かけてあげたんだから感謝されたっていいと思うな。

「…水色…てめぇ…わざとだろ」

「え?なんのことかなぁ」

せいぜい自分達が男と女だって事、意識したらいいと思うよ。



帰り道はすっかり日が傾いて、夕日が眩しい橙色。

いつもはケイゴの自転車に乗せられて走る遊歩道を、4人で他愛もない雑談をしながら歩く。

すっかりテンションを取り戻したケイゴは相変わらずうるさくて一護に自転車を蹴られたりしてる。

そんな中、なんでか朽木さんは少し寂しそうな表情で笑ってて、やっぱりそれはなんだか僕の記憶をかきまわした。

「どーした水色!元気がないぞ!」

ケイゴが自転車を引きながら体当たりしてくる。

ある種の病気なんじゃないかと思うぐらい屈託ない馬鹿。

でも僕はこの馬鹿さ加減にかなり救われてきたのも事実なわけで。

「…あ、そっか」

「へ?」

ケイゴと出会った頃の記憶がくるくるとまわってピタリと収まった。

思わず微笑んだ僕に、ケイゴは少し真面目な顔と声になる。

「…水色?なんかあったのか?」

きっと今、僕は少しだけあの頃の顔になってるんだろう。

全てを諦めて、何も欲しがらなかった頃の。

「なんでもないよ」

「ふーん?ならいーけど」

それでもケイゴは僕の右肩をトンと叩いた。

…キミのそういうところ、ほんと叶わないな。

世界中の新鮮な空気が肺を満たしたような気分になる。

少し歩調を速めて、後ろを歩く一護と朽木さんから距離をとった。

振り向くとやっぱり朽木さんは一番後ろで俯いてて、その表情の理由は、僕は多分よく知ってる。


憧れて、でも叶わなくて、諦めるしかない。


「しんどいんだよねー」

独り言を漏らした僕にケイゴが食いつく。

「え?なになに?なんの話?」

「浅野さんには一生理解できない種類の話」

「なんだよ!また俺仲間はずれ!?」

違うよ。

キミはいつまでもそうやってお日様みたいに翳りなくいてくれないと、困るんだ。

きっと、僕と朽木さんは同じものに憧れてる。

太陽みたいな優しさ。

何ももたない自分に、無償のあたたかさをくれる存在を。

後ろを歩く一護が何か言った気がしてチラリとそっちを盗み見た僕は目を疑った。

それはもう、それが一護なのかどうか怪しいぐらいに優しいカオしていて。

顔をあげた朽木さんのおでこをコツンと小突くとまた何か言って優しく笑った。


…うわぁ…恥ずかしい…


一護の視線がこっちに戻る前に慌てて前を向く。

さっきの映画のラブシーンなんかよりよっぽど恥ずかしい。

「…?どったの水色」

「…なんでもないよ」

夕日の色が濃くてよかった。

多分、今の僕の顔はちょっと赤い。

「なんか変だぞォ。今日は」

そりゃおかしくもなるよ。あんなの見せつけられたら。

でもなんでか凄く嬉しくて、鼓動が早くなる。

明日また一護をからかってやろう。

それから、いつか朽木さんにも言ってあげよう。

一護はお日様みたいだよね、って。


これからの春夏秋冬、僕の思い描く未来には、優しいしかめっ面と、花が咲くみたいな微笑が浮かんでた。










「…え?何言ってんだよ、水色」

「え?一護こそ何言ってんの?」

いつもと変わらないしかめっ面に向かって僕も眉を寄せる。

「朽木だよ、朽木ルキア!昨日一緒に映画観に行っただろ?」

登校途中の道端で、僕の両肩を掴んで一護は声を荒げた。

他の学生達の視線が痛いけど、目の前の一護の表情の方が痛々しくて僕は戸惑う。

「昨日の映画はケイゴと3人でいったじゃん…一護、大丈夫?」

僕の言葉に、一護は一瞬だけ泣きそうな顔になって、でも泣くはずなんかなくて、「そっか」と呟いてから手を離した。

一護の口から女の子の名前が出た事に少なからず興味を覚えたけど、軽々しく聞いてはいけない気がして僕は言葉を選んだ。

「誰なの?朽木ルキアって」

「…なんでもねぇよ。悪かったな。変なこと聞いて」

逃げる一護、追いかける僕。

こんなことが前にもあったな、なんて思いながら。

それがいつだったかは、思い出せないのに。

「大切なひと?」

前を歩く一護の表情はわからないけど

「……ああ」

その声はやっぱり泣きそうだと思えて僕は口を噤んだ。



まだ見ぬ「朽木ルキア」さん、僕はキミを知らないけど、一護がどれほどキミを想ってるかは僕にはわかるよ。


だからいつか逢えるときが来たなら、僕がキミに伝えてあげる。

言葉にするのが苦手で意地っ張りな友人の代わりに。

一護はきっと、キミの太陽になるから。



青空に太陽は白く眩しくて、はやく夕日になればいいのに、と、目の前の橙色を眺めながら、僕は思った。








FIN





→アkンケートお題「水色の観察日記」

コメリクくださった方、ありがとうございます(土下座)



例の神EDに被せてごめんなさい。
観察日記てゆうか水→ルキ風味でごめんなさい。
生まれてきてごめんなさい。
だがしかし生きる。←


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