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Shufful Lover!











その日、舜臣とアキラは図書館に居た。
二人のレポートの〆切りが近い事が、珍しく重なったので、会うついでに一緒にやってしまおうという事になったのだ。
二人の分野は違うが、二人の居る図書館は本の揃えも良く、二人以上で使える個室もある図書館で、二人は話もするだろうという話になり、そこを借りてレポートをしていた。

とはいえ、二人の性格もあり、既に大半はレポートを書き終えていて、後は他に何か参考になる文献を探す事と、自分の考えを書く事だけである。
あっさり終わってしまった舜臣は、読みたかった本を探して来て、持参したノートパソコンで文章を打ち込んでいるアキラを待っていた。




「…舜臣」

「何だ?」

「今日の集まりって、何時だったっけ」




今日は4回目のシャッフルをする日である。
確か夜だったという事はアキラは記憶しているが、詳細は忘れていた。

今はもう夕方である。
もう少しで夕焼け色に空は染まるだろう。


アキラの言葉に本から顔を上げた舜臣は、腕時計で時間を確認する。
今は4時半である。

舜臣の記憶によると、集合は6時。
集合場所はこの図書館からは30分弱かかる。
つまり後1時間は余裕があるのだが、買い出しもしなくてはならないので、後長くて30分程度しかここに居る事はできない。




「6時だが、買い出しもあるからな、後30分程度しか時間はないぞ」

「だよなぁ」

「終わるのか?」

「…いや。もう後は自分の考え纏めるだけだから、今日はもう終わりで良い。今日頭回らないし」




カチカチとキーボードを区切りの良い所で、アキラは手を動かすのを止める。
そして文章を保存してから、伸びをすると脱力した。

舜臣はそんなアキラを横目に、本を閉じた。
借りて帰ろうと思いつつ、本を机の上に置く。
そして鞄から財布を出すと、図書館のカードを取り出した。




「そういや、この間さ。俺のバイト先に栄純と成宮が来てたよ」




パソコンの電源が落ちるのを待ちながら、アキラはこの間の事を思い出していた。
この間、アキラのバイト先に鳴と栄純が来ていた。
二人で何かコソコソと話していたようだが、栄純が自ら内緒話をするとは思えない。
恐らく、鳴が誘って、何か話をしていたのではないかと、アキラは思った。

アキラは二人がコソコソしていても、見ててほほえましい感じがしていたので、悪い気はしなかった。
そんな事を舜臣にアキラは話した。




「あの二人か。まぁ、見ててほほえましいがな」

「なんか内緒話しててさ。成宮は半ばこっちくんな、みたいなオーラ出してんだけど。栄純はにこにこしててさー、アイツ、頭撫でてやりたくなるっていうか。構ってやりたくなるっつーか」

「…長緒」

「なんだ?」




舜臣の声に、アキラは電源が落ちたのを確認すると、パソコンを閉じた。
そして顔を舜臣の方へと向ける。




「お前は、栄純の事をどう思っているんだ?」

「…えっ…?」

「いや、お前が栄純の事を話すと、何だか楽しそうだからな。シャッフルの影響か、それとも…、純粋な疑問だ」




栄純の話をしているアキラは、思わず顔が緩んでいた。
アキラは栄純の事を思い出すと、胸が温かくなる。
頬が緩む。
この気持ちが何であるかは、はっきりとはしていないが、悪い感情ではない。
けれどどんな感情なのかと、定義を投げ掛けられたら、アキラは答えられなかった。

恋、なのだろうか。
けれどアキラ自体はそれを恋とははっきりとは言えなかった。
じゃあ、何なのだろう。


第一、舜臣はどうしてそんな事を聞いてくるのだろうか。
まさか、舜臣は栄純の事が、好きなのだろうか。
だからそんな事を聞いてきたのだろうか。

けれどだからといって、舜臣からはそんな感じはしなかった。
だから、




「…俺は……」

「答えられないなら、別に答えなくても良い。ただ、長緒にとって栄純はそれなりに特別なのだろうという事は解っている」

「なっ…」

「でなければ、御幸とも喧嘩しなかっただろうしな。まあ、二人が喧嘩した理由は、栄純だろう、という俺の予測だが。―――さて、そろそろ行くか。俺はこれを借りてくるから、出入り口で待っててくれ」




アキラの返事を待たずに、舜臣はさっさと立ち上がった。
鞄を肩に掛け、置いた本を持つ。
そして眼鏡を指で押し上げ、アキラを一瞥した。

アキラは答えられず、そのまま行ってしまった舜臣を言葉を失ったまま、見送った。



(…舜臣って、突飛だけど、痛い所を突いてくるんだよな。)


何を考えなくてはいけないのか。
何を決断し、何を知るべきなのか。
選ぶ道は、沢山ある。

けれどどうして良いか解らない。
考える時間がアキラにはなかった。



―――不意に。

アキラは御幸を思い出していた。

あの、あんなに栄純を想う程の、御幸の想いの強さ。
それがアキラにはない。
本当は、御幸にあんな事を言える立場ではなかったんだ。




「…頭、パンクしそう」




アキラは髪をくしゃり、と掻き混ぜた。

脳裏を過ぎったのは、御幸の強い意志を見せた顔。
そして明るく、自分を慕ってくれる、そんな笑顔を見せてくれる、栄純の笑顔だった。













(俺の抱えきれない気持ちは、両手に溢れる程で。)



10/6/6

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