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Shufful Lover!









(うわー…どうしよ、ちょっと気まずい。)


アキラは心中でそう思いながら、御幸が来るのを待っていた。
今日はバイトが早く終わるシフトで、御幸もこの時間に部活が終わるというので、会おうという事になった。

待ち合わせ場所は駅の改札横。
駅を出ると人が多いので、確実に会えそうな場所を選んだら此処だった。


アキラは気まずさを感じていた。
御幸に会う事もそうだが、この間の栄純と舜臣に会い、しかもデートについていった事も、言うか否か悩んでいたのだ。

言ってしまえば楽なんだろうが、どう切り出して良いかもわからない。
でも、考えてみれば、この期間中のあった事は全て話さなくても良い訳だし、どうするかは自分次第なのだ。




「スイマセン、遅れました」

「…あ。いや。俺も10分前位に来た所」




時計を見ながら答えた言葉に、御幸はそういう人初めて見ました、と笑っていた。
考え事をしていたからか、つい出てしまった言葉だ。

とりあえずはどこか店に入ろう、という事になり、歩いて直ぐにあった居酒屋に足を向ける。
未だ、栄純と舜臣の事は言えなかった。
頭がぐるぐるしてしまって、言葉にならなかったのだ。


入った店は少し狭いが個室になっていて、雰囲気も悪くなかった。
一時間程で出てしまうのだが、二人には充分な時間だった。
店を出た後は、何処行こうか、と二人で話す。

アキラはそんな御幸を横目に、やはり言い出せずにいた。
言ったら、あの日みたく、腕を掴まれたりするんだろうか、と考えてもいた。
いずれにせよ、アキラは結局その時も口にしなかった。




「長緒さん、今日は珍しくだんまりですね」

「は?…ああ、まぁな。ちょっと考えてた事があって」

「もしかして、シャッフルの事?」

「あー……いや、レポートの事。ちょっとまだわかんない所があって」

「それじゃあ、専攻が違うから俺からは何とも言えないですね」




専攻が一緒なら判るのか?と思ったアキラだが、口にはしなかった。
相手は御幸だ。
多分、頭が良い。

アキラは視線を泳がせ、ネオンが輝く街を見た。




「長緒さん、ゲームでもしません?パーッと遊びましょうよ」

「金がねぇ」

「…嘘ばっかり」




御幸の提案を暗に断ったアキラ。
しかし、その断りをニヤついた笑みで切り返す御幸。
アキラはその笑みを見て、苛々が募った。

今日ここまで栄純の事で悩んでいた事もあってか、その僅かな苛々で、アキラの苛立ちは直ぐに頂点に達しそうになっていた。




「それとも、ゲームとかで俺に勝つ自信、ないんスね」

「…そう言ってられんのも今のうちだぞ、御幸」

「だって勝負しないんでしょ?」

「誰が勝負しないって言った?やってやるよ、とことんお前に負けの気持ちを味わせてやる」




ニッコリ笑う御幸に、こちらもまたニッコリと笑顔を返すアキラ。
若干アキラの口元は引き攣っていたが、それは見なかった事にしておこう。


結局二人は近くのゲーセンへと向かい、メダルゲームやビデオゲーム。
流石にプリクラはやらなかったが、クレーンゲームもやった。

最終の勝負は5つ目のクレーンゲーム。




「長緒さん、勝たせてもらいますよ」

「クレーンゲームでまだ1回しか勝ってねぇくせに、よく言うぜ」




呆れた様子のアキラに、御幸は笑っていた。
確かにクレーンゲームで、御幸はアキラに一回しか勝っていない。
アキラがそう言うのも頷けた。

クレーンゲームでは、どちらが早く狙った賞品を獲得できるかを勝負としていた。
ちなみに現在はアキラがクレーンゲームは勝ち越しているが、ビデオゲームは御幸が勝ち越しているし、メダルゲームは同点だ。
勝つ為の意地は、恐らく御幸より年上だから、という単純明快なものだと思う。
実は実際、アキラにはそれは解らない。



結局そのゲームに勝ったのは御幸で、けれどクレーンゲームの勝利数はアキラの勝ちだった。
見事に引き分けた二人は、最後には笑って別れる事になる。




「負けましたよ、完全に」

「だろうな。お前クレーン弱すぎ」

「だってクレーンの賞品って妙な所にありません?中途半端っつーか」

「修行が足らねぇんだよ」




べ、と舌を出したアキラに、御幸は酷い言い方だの何だのと言って笑った。
携帯の時間を見ると、長い時間ゲームセンターで遊んでいたらしい。

明日も学校がある二人。
そろそろ帰らないと朝が辛くなる。




「さて、もう帰るか。電車乗らなきゃだし」

「電車乗れなかったら俺の部屋、泊まります?」

「嫌。つか、次の乗れなくとも、その次を待てば良い話だからな」

「冷てぇの」

「お前にはな」

「…ま、これだけ遊べば、アンタの悩みもちょっとは頭からすっ飛んで、楽になったっしょ?」

「……」




御幸の言葉に、アキラははた、と動きを止めた。

御幸の言う通りだ。
さっきまでアキラは悩んでいたのだ。
けれど気付いたらアキラは心のもやもやが消えていた。

こうして御幸と遊んで、それに熱中して。
思い出したもやもやもあるが、さっきより気持ちが楽になっているのは何故だろうか。
その答えは簡単に出てくるのだけれど、アキラは考えないようにした。




「お前って、さりげなさすぎて、栄純に気付かれないのな」

「なっ、何でそこに沢村が…!」

「自分で考えろ。俺は帰るぞ」

「……やっぱり、長緒さん、俺に冷たすぎっしょ」

「お前にはな。じゃあな」




同じ問答をあと何回繰り返すだろうか。
アキラはそう考えながらも、決まりきった問答に、つい口元を緩める。

御幸はああ見えて、さりげなく気遣う事があるようだ。
それを栄純は知っているのだろうか。
長年、傍に居たから、恐らく知っているんだろう。


アキラは御幸とそのまま別れた。
駅に向かい、ホームへ行き、電車が来るのを静かに待つ。
気付いたら、今日は結局御幸に言う事は出来なかった。
栄純の事を、結局は言えぬまま、別れてしまったのだ。


賑やかなホームの片隅で、アキラは携帯を見た。
そこには御幸からのメールと、栄純からのメール。
そして、未だに返せていないメール。

アキラは一度携帯を閉じた。
一つ呼吸をする。
そして漸く、再び携帯を開けると、一つずつ返信ボタンを押すのだった。

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