Shufful Lover! 3 (うわー…どうしよ、ちょっと気まずい。) アキラは心中でそう思いながら、御幸が来るのを待っていた。 今日はバイトが早く終わるシフトで、御幸もこの時間に部活が終わるというので、会おうという事になった。 待ち合わせ場所は駅の改札横。 駅を出ると人が多いので、確実に会えそうな場所を選んだら此処だった。 アキラは気まずさを感じていた。 御幸に会う事もそうだが、この間の栄純と舜臣に会い、しかもデートについていった事も、言うか否か悩んでいたのだ。 言ってしまえば楽なんだろうが、どう切り出して良いかもわからない。 でも、考えてみれば、この期間中のあった事は全て話さなくても良い訳だし、どうするかは自分次第なのだ。 「スイマセン、遅れました」 「…あ。いや。俺も10分前位に来た所」 時計を見ながら答えた言葉に、御幸はそういう人初めて見ました、と笑っていた。 考え事をしていたからか、つい出てしまった言葉だ。 とりあえずはどこか店に入ろう、という事になり、歩いて直ぐにあった居酒屋に足を向ける。 未だ、栄純と舜臣の事は言えなかった。 頭がぐるぐるしてしまって、言葉にならなかったのだ。 入った店は少し狭いが個室になっていて、雰囲気も悪くなかった。 一時間程で出てしまうのだが、二人には充分な時間だった。 店を出た後は、何処行こうか、と二人で話す。 アキラはそんな御幸を横目に、やはり言い出せずにいた。 言ったら、あの日みたく、腕を掴まれたりするんだろうか、と考えてもいた。 いずれにせよ、アキラは結局その時も口にしなかった。 「長緒さん、今日は珍しくだんまりですね」 「は?…ああ、まぁな。ちょっと考えてた事があって」 「もしかして、シャッフルの事?」 「あー……いや、レポートの事。ちょっとまだわかんない所があって」 「それじゃあ、専攻が違うから俺からは何とも言えないですね」 専攻が一緒なら判るのか?と思ったアキラだが、口にはしなかった。 相手は御幸だ。 多分、頭が良い。 アキラは視線を泳がせ、ネオンが輝く街を見た。 「長緒さん、ゲームでもしません?パーッと遊びましょうよ」 「金がねぇ」 「…嘘ばっかり」 御幸の提案を暗に断ったアキラ。 しかし、その断りをニヤついた笑みで切り返す御幸。 アキラはその笑みを見て、苛々が募った。 今日ここまで栄純の事で悩んでいた事もあってか、その僅かな苛々で、アキラの苛立ちは直ぐに頂点に達しそうになっていた。 「それとも、ゲームとかで俺に勝つ自信、ないんスね」 「…そう言ってられんのも今のうちだぞ、御幸」 「だって勝負しないんでしょ?」 「誰が勝負しないって言った?やってやるよ、とことんお前に負けの気持ちを味わせてやる」 ニッコリ笑う御幸に、こちらもまたニッコリと笑顔を返すアキラ。 若干アキラの口元は引き攣っていたが、それは見なかった事にしておこう。 結局二人は近くのゲーセンへと向かい、メダルゲームやビデオゲーム。 流石にプリクラはやらなかったが、クレーンゲームもやった。 最終の勝負は5つ目のクレーンゲーム。 「長緒さん、勝たせてもらいますよ」 「クレーンゲームでまだ1回しか勝ってねぇくせに、よく言うぜ」 呆れた様子のアキラに、御幸は笑っていた。 確かにクレーンゲームで、御幸はアキラに一回しか勝っていない。 アキラがそう言うのも頷けた。 クレーンゲームでは、どちらが早く狙った賞品を獲得できるかを勝負としていた。 ちなみに現在はアキラがクレーンゲームは勝ち越しているが、ビデオゲームは御幸が勝ち越しているし、メダルゲームは同点だ。 勝つ為の意地は、恐らく御幸より年上だから、という単純明快なものだと思う。 実は実際、アキラにはそれは解らない。 結局そのゲームに勝ったのは御幸で、けれどクレーンゲームの勝利数はアキラの勝ちだった。 見事に引き分けた二人は、最後には笑って別れる事になる。 「負けましたよ、完全に」 「だろうな。お前クレーン弱すぎ」 「だってクレーンの賞品って妙な所にありません?中途半端っつーか」 「修行が足らねぇんだよ」 べ、と舌を出したアキラに、御幸は酷い言い方だの何だのと言って笑った。 携帯の時間を見ると、長い時間ゲームセンターで遊んでいたらしい。 明日も学校がある二人。 そろそろ帰らないと朝が辛くなる。 「さて、もう帰るか。電車乗らなきゃだし」 「電車乗れなかったら俺の部屋、泊まります?」 「嫌。つか、次の乗れなくとも、その次を待てば良い話だからな」 「冷てぇの」 「お前にはな」 「…ま、これだけ遊べば、アンタの悩みもちょっとは頭からすっ飛んで、楽になったっしょ?」 「……」 御幸の言葉に、アキラははた、と動きを止めた。 御幸の言う通りだ。 さっきまでアキラは悩んでいたのだ。 けれど気付いたらアキラは心のもやもやが消えていた。 こうして御幸と遊んで、それに熱中して。 思い出したもやもやもあるが、さっきより気持ちが楽になっているのは何故だろうか。 その答えは簡単に出てくるのだけれど、アキラは考えないようにした。 「お前って、さりげなさすぎて、栄純に気付かれないのな」 「なっ、何でそこに沢村が…!」 「自分で考えろ。俺は帰るぞ」 「……やっぱり、長緒さん、俺に冷たすぎっしょ」 「お前にはな。じゃあな」 同じ問答をあと何回繰り返すだろうか。 アキラはそう考えながらも、決まりきった問答に、つい口元を緩める。 御幸はああ見えて、さりげなく気遣う事があるようだ。 それを栄純は知っているのだろうか。 長年、傍に居たから、恐らく知っているんだろう。 アキラは御幸とそのまま別れた。 駅に向かい、ホームへ行き、電車が来るのを静かに待つ。 気付いたら、今日は結局御幸に言う事は出来なかった。 栄純の事を、結局は言えぬまま、別れてしまったのだ。 賑やかなホームの片隅で、アキラは携帯を見た。 そこには御幸からのメールと、栄純からのメール。 そして、未だに返せていないメール。 アキラは一度携帯を閉じた。 一つ呼吸をする。 そして漸く、再び携帯を開けると、一つずつ返信ボタンを押すのだった。 [*前へ][次へ#] |