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その日王都は炎に包まれた。
『水と光の都』と謳われ、平和の象徴と名高い王国アスフェルドの都が、だ。
王都侵略の暴挙に出たのは、ダルシア国の帝王ルーフェン。
近隣の国を次々と攻め滅ぼし、破竹の勢いでその領土を拡げ、今や覇王として名を馳せようとする帝王ルーフェンは、ついに刃をアスフェルドへと向けたのだ。
平和の象徴として名高いとは言っても、兵力も軍備も持たぬほどアスフェルドは愚かな国ではなかった。
大陸最大を誇る領土と軍備。けれど決して近隣の国へ非道な行いを仕掛けることはない。
眠れる獅子とも呼ばれた王国アスフェルドは、強大な軍力を持って他国に睨みをきかせ、穏やかで平和なそしてまた豊かな暮らしを守ってきたのである。
しかしその日、平和な暮らしは残虐な行いにより破られた。
流れる血と炎が王都を包む。
人々は叫び、泣き声をあげ、逃げ惑い、敵の刃の前に為す術もなく倒れ伏した。
剣を手に戦った勇敢な者たちは、瞬く間に命を奪われた。
剣を持たぬ女や子供たちすらも、無残に屍(しかばね)をさらすこととなっていったのだ。
新たな炎があがる。
堅固な城壁に守られ、難攻不落とされた王城すらも例外ではなかった。
アスフェルドの王は死んだ。
王城を守るべき近衛師団も、大半は命を落とした。
残った者は僅か。城もやがて落ちるだろう。
「王子、こちらへ」
低く落とした、けれど緊迫した声が疾(はし)る。
「う、わっ」
「ヒショウ!」
躓(つまづ)き転びそうになった少年の身体を、もう一方の少年の腕が掴み寄せた。
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