*1*

 晴れて穏やかな日和だというのに、街は殺気立っていた。

「あっちへ逃げたぞ!」

「貴重な金ヅルだ。絶対に逃がすんじゃねーぞ」

 怒声をあげながら、男たちは鉄パイプやバット、網や縄といったものを手にして、我先にと駆けて行く。

 当然彼らが追うのは『猫耳』だった。

「『猫狩り』だ」

「あの様子じゃ、捕まるのは時間の問題だな」

 高みの見物よろしく、立ち止まった通行人たちがこそこそと囁きあう。

 可哀想だとも思うが、救けになど入ろうものならとばっちりを受ける。『猫耳』になど関われば身の破滅だ。

 誰しも己の身が可愛い。

 ここは見て見ぬ振りを決め込む他、手はなかった。


   × × × × ×


「この街で『猫狩り』とは、僕も甘く見られたかな」

 スウと眸を細め、男は呟く。

 高級ブランドのスーツに身を包み、長髪を背でひとつに束ねている。

 いかにもといった身なりの良さに甘いマスク。柔らかな笑みがかえって酷薄(こくはく)さを感じさせた。

 彼の名はキサラギ。この辺りで『犬神』を集め仕切っている。

 彼自身ももちろん『犬神』だった。

「ムツキ、ミナ」

 指をパチンと鳴らし、名を呼ぶ。

「行っておいで。手加減はナシでね」

 口許には冷ややかとも思える笑み。

「はいはーい」

 それへ呑気ともとれる返事が返された。

 少年らしさの抜け切らないミナだ。

 一方のムツキは「面倒くせー」とごちる。が、だからといって行かないと言う気はないようだった。

 元気に駆け出すミナと同じくして、ムツキも素早く駆け出していたのだ。


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あきゅろす。
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