いつかのさよならまで(TOW/ユリセネ)
どんなことにも、必ず終わりは来るのだ。
ディセンダーによって救われた世界は、徐々に平穏を取り戻しつつあった。それに伴ってギルドに舞い込む依頼は減っていく。皆、暇をもて余すことが増え始めた。そのうち、皆アドリビトムから離れていくのだろう。各々がやるべきことをやるために。それはセネルも例外ではなかった。
「故郷に戻る?」
怪訝な表情で訊き返して来たユーリにそうだ、とセネルは平坦に答えた。
「本格的に復興の準備を始める事になったんだ」
「ふーん……」
数日前に話が出て、つい先程纏まったばかりのことだ。今までは世界情勢もあってギルドに居た方が効率良く故郷の人間を助けられた。けれど世界は救われて、新たな方向へ進み始めた。もうギルドに居る必要はなくなってしまったのだ。
「いつ戻るんだ?」
「まだ決まってない。……でも、そう遠くないうちには」
「そっか」
ユーリは長い髪をがしがしと掻いた。暫し地に視線を落とした後、顔を上げてセネルを見据える。
「そりゃそうだよな。いつまでもここでこうしてられねえしな」
そのユーリの言葉は、セネルにひとつ現実を突きつけた。いつまでもギルドに居て、皆と楽しく過ごしてなどいられない。こうやって永遠にユーリと話してなどいられないのだと。物事に常に付き纏う終焉。それを強く実感させた。
「……もし」
「ん?」
「もし、行きたくないって言ったら、お前はどうする?」
改めて実感した終わりが、セネルにその仮定を口にさせた。ユーリは目を丸くしている。実にセネルらしくない仮定だった。自分の為の我儘を口にすることなんて、冗談でも無かったとユーリは記憶している。だから直ぐにユーリは答えを返せなかった。
「……悪い、ちょっとした冗談だ」
黙ってしまったユーリに困ったように少し笑って、セネルは言葉を取り消した。ユーリは尚も相槌すら打てない。気にしないでくれ、と気を遣われる有様だった。
言いたいことはきっと沢山有るのに。こんな時間がもう何度もやってこないと知って、今しか出来ないことはきっと沢山有ると、そうわかっているのに。互いに互いの感情を持て余したまま時間は過ぎてゆく。
寂しさだとか、何だとか。それを口に出来ない代わりに出来るだけ一緒に居たいと思った。そう遠くないうちにやってくるらしいさよならまではどうか。
――そんなことを考えているセネルは、やはり少し平静を欠いていた。
先程の冗談めかした本音の問いが、どんな結果をもたらすのか。そこまで考えが及ばないほどに。
いつかのさよならまで
***
続きます。
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