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LOVE GAME
■Battle.51(※イジメ表現あり)

 哀しそうな、悔しそうな顔をする四季を思わず抱きしめ、背中を優しく宥めるように叩いてしまうのは、慰める意味もあるが、そんな顔をさせてしまうことを謝罪する意味も込めてだ。

 でも、これを吐きだせば、四季はきっと変われると信じているから…。

 四季が溜めを作り、大きく深呼吸するのを感じながら、また背中を叩いてやると、意を決したように、四季が忘れたい過去が明かされる。

「サッカー部に入部すると、監督に贔屓された。普通なら1年は用具の用意とか片付けとかするのに、僕はすぐにレギュラーとして練習に参加させられた」

 凄い依怙贔屓だな…でも、それじゃ、上下関係の厳しい体育会系なら。

 こうオレが思っていると、案の定、四季は部員全員に良く思われず、嫌がらせを受けるようになったと、震えた声で話す。

 抱きしめているため顔は見れないが、きっと泣きそうな顔をしているのだろう。

「嫌がらせは、どんどんエスカレートしていって、気付けば『イジメ』に変わっていった。靴を隠されるとか物が捨てられる…それだけなら、まだましで、しまいには、練習中やすれ違いざまに、スパイクで足を蹴られるようになって」

「母親に何で言わなかったんだ?」

「言えないっというか、言う暇がなかった。母親は昇進して都会に出てきたから、慣れない仕事を夜遅くまで頑張っていて、寝るのは短時間。あの頃、僕と顔を合すのはほんのわずかで、まともに見れたと思ったら、僕は病院のベッドにいて…」

 それほど、四季の都会生活はひどかったと言うことか。

「たぶん、ちゃんとすぐに違う大人…監督とか、兎に角、学校関係者に言えば良かったんだと思う。でも、これが知られるとサッカー部は出場停止になるし、何より、僕は真二との約束を優先させていた。…それに、何も『イジメ』だけではなくて、怪我もそう。傷はそれほど深いものではなくても、消毒とかシップとかちゃんと手当するべきだったんだ」

「痛かったか…」

 なぜか当たり前のことを質問してしまう。

 四季は、涙声で「うん」と頷くが、それは想像もつかない辛いものだったのだろう。



「少しずつ…おかしいとは思っていたんだ。しだいに足が腫れて、あわてて治療し始めても痛みが酷くて、よく寝れなくて…。ある日、練習中に痛みと寝不足で気絶するように倒れて救急車で運ばれた。そのあと、すぐに『右足は緊急手術だ!』と医者は叫んで、僕は麻酔をかけられ、目が覚めたら、両足は全く動かなくて…」

 あとは、もう四季はオレのTシャツを掴み、涙声のまま。

 幸い、四季の左足は手術することがなかったが、それでも元の状態の足に戻らなかった。

 まして、手術をした右足は完全に歩く機能を止めたそうだ。

 今動けているのはリハビリのおかげだが、右足が動けるのは奇跡に近いと、医者に褒められたと、顔を上げた四季は儚く笑う。

 普通に歩けるまで、車椅子…それから松葉杖、四季はリハビ中、何をおもったのだろう?



 北校はこの事件が公となり、出場停止になったことを、その頃のオレは、小さな記事で読んでいた。

 なぜか、グラウンドに佇む、四季の泣き顔が浮かんだ。


[■負け][勝ち□]

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