喚ばれてみれば… 03.命の刻限(3) 僕が、『僕がここいた証』が欲しいと思ったのは、何もないことがわかったから…。 10歳の時、2度目の手術を受けた。 これで、最後の手術だと聞かされていたからかもしれない。 夢がたくさんあった。 家に帰ってみたい。 友達を作ってみたい。 学校に行ってみたい。 走ってみたい。 お菓子をたくさん食べてみたい。 etc…。 紙に書けるだけ、たくさんの夢を書いた。 両親は楽しそうに笑っていたが、2つ下の8歳の妹は、不思議そうな顔をしていた。 「おにいちゃんは、何でこんなことがしてみたいの?」 無邪気な声で問いかける。 普通の人にできることが、僕にはできない。 それを妹が理解できないのがわかっていたので、苦笑いしていると、妹は僕が想像もできない夢を軽やかに話す。 「ユイはね、この前、学校で歌を褒められたのー。だからねー、将来は、アイドルになって世界中の人にユイを知ってもらうのよ」 「世界中に?」 「うん!みんな、みーんな、ユイの顔を見ただけで、ユイ、ユイって言うんだよ!」 ユイの話しは、僕には想像がつかない世界だった。 両親や妹、病院関係者以外では、誰も僕のことを知らない。 病院内で友達は数人いるが、その誰しも僕より早く退院して行き、そして、僕を忘れてゆく。 そんな日常を過ごしている僕は、夢物語のように聞こえだが、それならば、退院したあと必ず、人々が注目…と、いかなくても、僕を僕として知っている人を作ろうと思った。 これで、僕がいなくなったとしても、僕を知っている人ができる。 しかし、こんな単純な願いさえ、もう叶えることはできない。 [★逆召喚][召喚☆] [戻る] |