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うさぎの初恋
◆04.初恋。

◇◆【朱里、小学2年】◆◇

 箱の中を見ると、真っ黒な仔ウサギ。

 まだ生まれて間もない感じで、どうしてこんな場所にっと思うが、犬猫を捨てるような時代であり、このウサギもまた捨てウサギということなのだろう。

 それにしても、ちょっとこのウサギおかしい…何か、動きがぎこちないような…。

「あのねー、うさがウサギを見つけたらこの仔がいたの。でね、ウサギの右手なくて…うえぇぇぇん」

 女の子の言葉に同じようにしゃがみ込み、黒い仔ウサギを見つめてみるとたしかに右腕がない。

 女の子の泣き声が響く中、じっと見つめるしかない自分に何だか泣きたくなる。

「大丈夫、その仔は強いからきっと大きく育つし、何なら俺の家で飼うよ!」

 こんな言葉しか掛けてあげられない自分が悔しくて、女の子の頭を丁寧に撫で、ポケットに入っていたハンカチで涙を拭ってやる。



 泣き止んだ女の子の名前は『うさ』。たぶん、『うさみ』とか『うさこ』とか可愛い名前なのだろう。

 俺はこの時嬉しさのあまり、自分の置かれた状況も忘れたくさん話しかけるが、それには時間が足りなくて…。

「うさ、真っ暗になる前に帰らないと…」

 そんな言葉が『うさ』から出て、がっくりくるが当然のことであり、2人で立ち上がり、俺はウサギをぎこちなく抱きかかえる。

 ウサギの抱き方など知らず、不安定な状態のせいか仔ウサギは弱弱しくも暴れたすと、スッと『うさ』が器用に仔ウサギを受け取り抱きしめる。

「うさ、ね、お家にいっぱいウサギがいるの。だからね、この仔も家の子にしてもいい?」

 首を傾げて俺に聞く姿に俺は、もうメロメロ。

 大きく頷いて、2人でウサギが強くなるようになぜか『殿』と名前を付け、その場を去る。



 これが、俺の初恋であり…初恋の女の子の名前が『うさ』と言うこと、そして、2人で名づけた『殿』という、ウサギをその子が飼っているということだ。



 ちなみに俺はあの時かっこよく去ったものの、迷子に気付いたのはだいぶ経ってから…。その後、警察に保護され親が迎えに来たことは、いまだに恥ずかしく苦い想い出だ。

◇◆◇◆◇






 初恋とは苦く甘酸っぱいもの…。

 その後の俺は必死に勉強し、ウサギの慈善団体に色々な協力などをしているうちに慈善団体の名誉会長職までいただいてしまった。

 その俺にウサギの駆除などできるはずもないのは、両親も兄達も知っているはずで…はっきり言おう!両親と兄達は面白がっている!



 ため息を付きつつ、昼飯でも食べるかとメニューを開くと手の中には玩具付お菓子のおまけが…。

 これも、なんの因果か俺の手がけた仕事の一部だ。

 そして、これがウサギ玩具のプレミアまでつくくらいのレアアイテムにしたのは、俺の思い入れが強いからだ。

 レッキスのブロークン色。イメージは初恋の人…。

 黒髪、黒目の初恋の君、とても似ているとはいえないが、毛並みの手触り感、愛くるしい表情が初恋の人と重なる。

 そっと掌に乗せ、ニンマリしていると………ここで、階段から駆け上がってくる人物と目が合った。



 緑のブレザー?普通科に役員はいないはず、何の用だ?

 など、俺と隣にいる長耳も同じように見つめるが、声を掛けるより早く俺は暖かい温もりに包まれる………て!抱きしめられている!!

 自分よりも確実に15p以上は低い小柄な生徒なため、どちらかというと抱き付かれている事態に身体を硬くするが、それは、長耳も同じであって呆然とこちらを見つめている。

 いや、食堂の全体が驚きのあまり静かな………それこそ、これから起こるであろう阿鼻叫喚の事態が簡単に予測されて…。

 しかし、固まっていた次の瞬間には、俺の掌に有ったはずの玩具が、そいつに奪われている。

 そして、そいつは満面の笑みをもって、玩具に頬ずりしている状況………頼む、誰かこれを説明してくれ!!


[*の後退]の前進*]

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あきゅろす。
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