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うさぎの初恋
◆03.再び、不満なこと。

 不満なこと。

 俺の名前は、兎三山朱里(とみやま しゅり)。私立英修学校の2年S組、特進学科の生徒で、生徒会長という役職にもついている。

 実家も自分で言うのも何だが、金持ちだしそれなりに楽しい学生生活を送っている。

 が、ここ最近不満なことがある。



 【○○○山にて、野ウサギが異常繁殖し、山林の被害が甚大になっている―――――】

 等々、不満満載な書類を手にし、食堂に来ているが、この対処になぜ、俺がかり出される!っと、書類を握りつぶさんばかりに握りしめていた。

 しかも、最後の書類には、ウサギの始末をどうにかしろっと、親兄弟は難問を俺に押し付けて来て………いや、絶対面白がっている!

 俺が、ウサギに思い入れがあることを知ってのことだろう。

 書類を指ではじき飛ばしため息を付くと、隣にいる親友兼生徒会副会長の立川長耳(たつかわ ながみ)が、俺に遠慮することはなく、クスクス笑っている。



 ひと睨みするか、しないか…など考えるが、長耳は書類のことと俺がウサギ好きなのを理解しているので、右眉を上げるだけに留める。

「それにしても、君の御両親も御兄弟も君に無理難題を押し付けるねー」

 長耳の奴、完璧面白がっているな…。

「………長耳、コメントは必要か?」

「いや、いいよ!笑わせてもらったし」

 長耳は俺の返答にまたしても、笑い出し食堂のメニューでわざとらしく顔を隠す。

 今は昼休みで、当然ここには食事に来ているが、ここは生徒会役員や各委員会の委員長など役職の者しか入ることはできない2階席だ(テラス風)。

 下から生徒の視線を感じるが、2階の階段を勝手に上がってくる生徒はいず、なかなか快適に過ごせる。

 ………今は、長耳のせいで、生徒が長耳の珍しく笑う姿に注目しているが、これも、上流階級の俺達には慣れたもので、特に支障はない。



 はぁー、それにしても、野ウサギ問題をどうするか…。

 ちなみに、俺はそれほどウサギに思い入れはない。思い入れがあるのは、あの時出会った『うさ』であり、その人物はいまだ探し出せずにいる。

 俺の初恋………あれは、俺がまだ小学2年生の頃の話しだ。






◇◆【朱里、小学2年】◆◇

 この頃の俺は、家庭教師と習い事を多くこなし、自由時間と呼べるものがなかった。

 俺には5歳離れた兄と3歳離れた兄がいた。

 どちらの兄も優秀で、自分の目標であり…しかし、俺はそんな優秀な兄達がプレッシャーで家を飛び出した。

 けして自分が劣等生だった訳ではない。

 しかし、この時の俺は兄に追いつきたい…でも、追いつけない事態に友人を作ることもせずにいたせいで、勉強三昧の毎日にキレたのだ。



 あてもなく走り出したため、気付くと夕暮れ…。

 心細い思い…でも、泣くには自分のプライドが高くて、必死に歩いていた。

 行く場所などなかった…でも、足は止めたくなくて………止めたら泣いてしまいそうで………そして、気付くと泣いていた。

 いや、俺が泣いていた訳ではなくて、空き地のどこからか泣き声が聞こえてきて…。

 空き地を見渡すと、大きな段ボールを前にしゃがみ込んで泣いている女の子がいた。



「ど、どうしたの?」

 こんな場所で泣いているのは不自然だが、普段の俺なら声はかけない。でも、この時どうしても話しかけずにはいられなくて…。

 女の子の背の半ばまである髪が揺れ、ゆっくりこちらを振り向く。

 黒い瞳は真っ赤になり、とめどなく涙が溢れていた。

 姿をはっきり確認すると、女の子はボーイシュな格好をしていた。パステルピンクのうさぎ柄のTシャツに紺のズボン。

 ドキリッと心臓が鳴り妙に顔が熱くなるが、何とか平常心を持って声を掛けたと思う。

「何が哀しいの?もう、暗くなるよ、家まで送ろうか?」

 迷子か何かだと思って声を掛けたが、自分も似たり寄ったりの状況ということを思い出す。

 一瞬、どうしようかと考え込むが、女の子が首を振り「ウサギが…」と、呟き段ボールの箱をまた見つめる。

◇◆◇◆◇


[*の後退]の前進*]

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あきゅろす。
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