泣いてるわけないでしょ
※『大人の君、子供の俺』様へ提出。
臨也(高校生)×帝人(大学生)




新生活と言うものは、総じて忙しいものだ。
慣れない通学路、新しい校舎、目新しい授業、不慣れなレポート、そして新しい交友関係。
けれど変わらないものもある。僕にとってそれは、彼との時間だった。

「ごめん、臨也君。待った?」
「平気だよ。それより帝人さん体力ないんだから、別に無理して走って来なくていいのに」

クスクスと馬鹿にしたようにそれでいて慈しむように笑う彼が、僕の額に薄く滲む汗を拭ってくれる。
ありがとう、とお礼を口にしながらも不貞腐れてみせるのは一応僕の方が年上だと言う小さな主張。
ただでさえ僕は彼よりも身長が10センチも低く童顔だと言うのに、そんな風に振る舞われたら立場がない。
学ランを着た彼を見上げる僕を、端から見た人は年下と思うんだろうか。

「一つしか違わないのに、そんなに年上ぶりたいの?帝人センパイ」
「……わざとらしいなあ」
「わざとだからね」
「というか、懐かしい響きだね」

くすくす、と今度は僕が笑いながら過去を懐かしむ。
慌ただしい日々に追われ、懐かしいと思うほどの月日が経ってしまったと言うことか。

「そうだよね。もうすぐ受験だもんね、臨也君」
「そうだね」
「………考え直して、くれた?」
「……………」

眉間にシワを寄せた彼が口を噤む。頬を膨らませるような、唇を突き出すような、それは言うことを聞かない子供のような顔で。
純粋な子供のそれと、欲を知った彼のそれ。どちらが手に負えないものなのかは僕には解らない。
解るのは、彼のその欲が僕に向いていると言うことだ。自惚れではないことが、何より厄介。

「臨也君、お願いだから自分の将来のこともっとちゃんと考えてよ」
「帝人さんこそ解ってよ。俺の将来はあなたと一緒にいることだって、何度も言ってるのに」

何で解ってくれない、と互いに懇願する。
同じ高校の先輩後輩だった頃より、大分一緒にいられる時間が少なくなった事実が彼をこう導いてしまった。
僕と同じ大学に行く、と。彼ならもっと上を目指せると言うのにだ。
そんなことはして欲しくない。僕のためではなく自分のためだと宣うその言葉が酷く嬉しくて仕方がなくても、駄目だと言う資格が僕にはある。

「臨也君、」
「やだ。聞きたくない」

ピシャリ、と僕の言葉を遮ってそっぽを向く彼は僕の手を強く握って離さない。
何だと言うのだこの駄々っ子は。自分だけだと思っているのだとしたら頭脳は良いくせに彼はきっとただの馬鹿だ。

「……臨也君のばか」

力の入れすぎかはたまた違う理由でか震える彼の手を握り返して、悪態を吐く僕の声は滲んでいた。
やっとこちらを向いてくれた彼と目を合わせば、その瞳は手のひらと同じくらい揺らいでいた。情けない笑顔を浮かべた僕の顔がそこに映る。

「みか、ど……さん?」

よもや断れるとは思っていなくとも、好きだと初めて彼に伝えた時くらい不安に心が震えた。
でも彼が欲を向ける先が僕だと言うのなら、彼を説得するすべを持つのは僕だけだ。そう己を叱咤する。

「臨也君が高校卒業したら、さ……、一緒に暮らそうよ」
「は、」
「そしたら、今までよりもっとずっと一緒にいられるでしょ。だから、だから…、」
「みか、どさ……ッ!」

繋がった手を引かれ、力強く抱きしめられる。抱きしめ返す。
僕の肩口に顔を埋めた彼の頭を撫でながら、僕は僕の手を煩わせた馬鹿な後輩をいじめてやろうと思い至る。
きっとそれが、年上の役目なのだと視界を滲ませながら。

「臨也君、もしかして泣いてるの?」
「ハハッ、」





(笑みしか溢れてこない、と二人して涙した)




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Thanks title:確かに恋だった
(2010/10/27)


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