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リクエスト小説
貴方に何度でも、(5100Hit 楓さま)

「隆也が事故った」


恋人のそんな知らせを受けて病院に駆けつけたオレに、隆也は申し訳なさそうに言った。


(ごめんなさい、誰だっけ。)



貴方に何度でも、



あれから一週間、オレは毎日土産を持って病院に通っている。
今日のシニアでのできごとだったり、チームメイトとのくだらない会話を隆也に話して聞かせると、隆也は楽しそうに笑った。
忘れているのはどうやらオレのことだけらしい。

「榛名…さん、どうしてこんなによくしてくれるんですか」

首を傾げて尋ねてくる隆也は、今までと何も変わっていない。ただ一人…オレだけがいない世界に生きてるってだけで。

「……大事な、チームメイトだからな」

オレたちの関係を言い出せないまま、オレは10分かけて剥いたリンゴを差し出した。歪な形をしていた。

「…すみません、思い出せなくて」

ぽつりと呟かれたその言葉に、今まで必死に繕っていた笑顔が崩れる。
―――どうして。
たくさん傷つけて、遠回りして、漸く手に入れた幸せだったはずなのに。

「…今日はもう、帰るな」
「え…?」

突然立ち上がって荷物をまとめ始めたオレに、隆也が慌てたような顔をする。それは普段、機嫌を損ねたオレを見上げる時の隆也の顔によく似ていた。

「ちょっと待ってくださ、…っ!」

引き止めるように伸ばされた隆也の手がオレの左手を強く掴んだ瞬間、その手はまるで弾かれたようにビクリと引っ込められた。

「…隆也?」
「あ…ごめんなさい」

自分自身の突発的な行動の意味がわからずに戸惑う隆也を見ると、オレはその細っこい身体をそっと抱き締めた。

いつもオレの左手を大切に大切に扱っていた隆也。
今、まるで知らない人を見るような目でオレを見上げる隆也の中に、確かにオレという存在を見つけた気がした。

だからきっと、大丈夫。


戸惑う隆也の後頭部に手を差し入れて強引に引き寄せると、できる限りの優しさを込めてその唇にキスをした。

キスで目覚める…なんて、そんなおとぎ話のようにはいかないけれど。


「……覚悟してろよ、隆也。」



(何度でもオレに惚れさせてやるから)




*END*

______20080410

貴方をまた“元希さん”と呼ぶその日まで、あと少し。

またしんみり暗くなっちゃいました;もっとラブラブにしたかったのに…!
楓さま、リクエストありがとうございました!

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あきゅろす。
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