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リクエスト小説
花、拓く。(4900Hit はるひさま)

桜を見ると思い出す、絶望の記憶。


まるで何かを祝福するように降り注ぐ桜の雨は、

とても鮮やかで、とても残酷でした。



花、拓く。



「お前、こんなとこにいたのか」
「阿部君…」

学校の裏庭にある大きな桜の木に身体を預けてぼんやりと空を眺めていると、ふと声をかけられて視線を彷徨わせる。心地良く耳に響くその声は、オレの大切な人のもので。

「…どうした の?」
「あー…昼休みからいないって聞いたからさ」

よっ、とオレの隣りに腰を下ろすと、阿部君は同じように空を見上げる。

「何、見てたんだ?」
「…桜と、空」
「お前…授業中だぞ」
「阿部君、こそ…」

負けじと言い返すオレの髪に手を伸ばし、阿部君はクッと小さく笑った。

「…頭にいっぱいついてる」
「うぇ…?」

その指先には桜の花びら。阿部君の手の中のそれはあまりにも綺麗で、オレは思わず口付ける。視線を阿部君へと移すと、今度は赤く染まるその唇に。

「…オレね、桜を綺麗だと思ったこと、一度もなかったん だ…」
「…はぁ?」
「毎年…春先に部活に顔を出すと ね、『あれ、まだいたの』って言われるのが、怖くて…」

震える唇で紡ぎ出した言葉を、阿部君は何も言わずに聞いていた。チラリと横目で様子を窺ってみても、その表情からは何の感情も読み取れない。
それでも、不意に握られた手は微かに震えていて、ぎゅっと握り返すと大切な大切な暖かさがあった。

「でも ね、阿部君…」

再び空を振り仰ぐと、優しい春の風と穏やかな日差し、舞い散る桜。
隣りには大好きな君がいて。

甘えるように擦り寄ると、オレはそのまま静かに目を閉じた。





「阿部と三橋、いたかー?」
「うーん……あ、いたいた!」
「うわっ、二人とも寝てんじゃん!……どうする?」
「…幸せそうだし、ほっとくか」
「……だな。」



(ありがとう。)

全てを投げ出した先で待っていてくれて。
何もかもを捨てて逃げてきたオレに立ち上がる力をくれて、本当にありがとう。


長い 長い 冬を越え、
今 オレの目の前で咲き乱れる桜は、

とても鮮やかで、とても綺麗です。




*END*

______20080404
あっれ〜?春らしい甘い話ってリクだったのに、何かちょっとシリアス風味な…;ごめんなさい〜;
はるひさまに捧げます。返 品 可!!です…。

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