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Present
二周年記念/文

佐倉様に捧げます、佐倉様宅「ハチナナ屋」二周年記念小説。
佐倉様宅の忠勝、康政、家康で小説を書かせて頂きました。
女性向き要素(康政→忠勝→家康)ですので、苦手な方はご注意ください。
なお、佐倉様のみお持ち帰り可能です。
二周年おめでとうございます!!
そして、書かせて下さってありがとうございました…!!











たったそれだけ。









それ以上は危険だって言っても、きっとやめやしないから。
お前は殿さんを守ることを、やめやしないから。
だったら少しでもお前の苦労を除く為にも、俺が守るしかないような気がするんだ。





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「小平太!」

血飛沫が、弾け飛んだ。
“しまった、出過ぎた!”と思った時にはもう遅くて、康政は右肩を矢に貫かれていた。

「馬鹿が…!」

体が斜めにぐらついて、地面に背中から落馬していた。
ぐぐっ…と息が詰る。
目の前に、陽光を受けた刃が迫る。
やばい…と思ったが、康政の身体は上手く動いてくれない。
これはやばい。
やばいぞー…。

「我が名は本多忠勝!この死合、俺が預かる!!」

躍り出た影が、迫る刃をキンッと受け止めた。
全く、本当に馬鹿だ…と、内心思いつつ、胸が苦しかったので言葉にはならない。
しかも、視界まで霞んできた。
あぁ、俺って全く役立たずじゃないか…そんな風に思いながらも瞼が重くて仕方が無い。
康政は、ゆるりゆるりと眼を閉じたー…。



………
……




はい、とにかく御汁粉を食べるのじゃ!

えー…っと…、なんですか、殿さん…

だから、御汁粉!

なんでこの糞熱い時期に御汁粉なんか…

元気になるのだぞ、御汁粉は!傷の治りも早くなる!

聞いたことないけど…

遠慮せずに、ぐいっと!

いや、遠慮とかじゃなくて…うわぁっ、なんで土鍋一杯!!??

ぐいっと!

熱いっ!殿さんまじで熱い!!元気になるどころか火傷で死ぬって!ちょっ…死ぬってぇっ!!











「汁粉はだめぇぇぇぇえええ!!!」

布団を派手に蹴り上げ、がばっと上半身を起こす。
途端、右肩に焼きごてを押し当てられたような言葉に言い表せない程の激痛を感じ、康政はヒィッと息を詰めてまた寝具に背中から倒れた。
すると背中も痛さで軋み、今度は顔をしかめることになった。

「…汁粉?」

低い声が聞こえてふと隣を見遣れば、寝具の横で胡坐をかいているでかい男。
本多平八郎忠勝。
ミンミンとけたたましい蝉の鳴き声が否が応でも侵入してくる糞熱い室内で、愛武器の手入れに勤しんでいる。

「ようやく起きたか」
「ようやく?…っテテ」

少々身じろぎするだけでとんでもなく痛い。
そうそう見事に肩を矢で貫かれたんだった…と思い出し、自分の不甲斐なさに思わず溜息が洩れる。
そんな康政の汗ばんだ額に、こつんと拳が下りてきた。

「あまり無茶をするなよ」
「…別に、あれは無茶の部類に入りゃしねぇよ」
「だったら、この怪我は何だ」
「……」
「あの場で小平太がわざわざ殿をお守りしようと無茶をしなくとも、俺が動けた筈だ」

康政は、黙った。
しかしあの角度から身を翻せば、あの矢は確実に忠勝を貫いていたではないか。

「お前が殿を守ることにいつも一生懸命でいてくれるのは嬉しいが…な。お前がいなくなったら元も子もないんだぞ」
「…そりゃ…そうだけど」

“殿が、好きだ”
康政は徳川家康という男を好いている。
だから家康の為に命を張ることに、なんら抵抗はない。
でも。
それは。
きっと。

「…お前だってそうなんだぞ、平八」
「何がだ」

きっと。
否、絶対。

「お前だって、死んだら元も子もないんだからな」

榊原康政にとっての、本多忠勝。

「…はは、その通りだ」

それは、本多忠勝にとっての徳川家康。
お前が殿さんの笑顔にときめくのと同じで、俺だってお前の笑顔で死にそうになってるんだからな。

「気を付けるよ、小平太」

忠勝が小さな微笑をその唇に携える。
康政は蒸し暑いのに布団を口まで引き上げて、籠った声で言った。

「そう言っていつもお前は無茶すんだ。…殿さんの為に」











それ以上は危険だって言っても、きっとやめやしないから。
お前は殿さんを守ることを、やめやしないから。
だったら少しでもお前の苦労を除く為にも、俺が守るしかないような気がするんだ。
殿さんの為に死ねるお前を守るには、まずは殿さんを一生懸命守らなきゃ。
たった、それだけなんだ。
俺が戦場で命を賭ける理由なんて、たったそれだけなんだ。












end











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あきゅろす。
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