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僕の歌姫(フレン)



「―…♪♪」

透き通る、歌声
後で演奏している人達も、圧倒する程。
幻想的でいて、とても優しく聴く人を包み込む、そんな声

その声は、帝都に響いた。

終わった曲に、お辞儀をする少女。
大きな歓声に、立ち上がり拍手をする人々。
投げられる花。お金を投げる事は初めにダメだと言われていたので、こんな歌を聴かせてもらった人々の中にその約束を破る人はいなかった。

僕も、その歌を聞いた一人。
観客としてではない。
彼女の歌を聴きに来たエステリーゼ様を護衛する騎士として。

彼女はなまえといい、最近世界を騒がす程の歌声の持ち主と風にのった噂でここ帝都もその噂で持ち切りだった。
一度ハルルにも来ていて、舞い散る花びらの中で歌う姿はまるで天使のようだったらしい。

お付きの者にそれを聞いたエステリーゼ様が、どうしてもその方にお会いしたいと言い出し、ユーリの所属する凛々の明星に捜索を依頼。招待状を渡してもらったという。

そしてここ帝都で歌を披露しているというわけだ。
この仮設会場に上がる前に、エステリーゼ様となまえは少し話しをしたらしい。

凛々の明星に招待状の返事を持たせ先に帰して、滞在していたカプワ・ノールから一人でここまで来た、と言っていた。歌も一人で回って歌っていると聞いた。
この少女が、どうやって一人で?
僕がなまえという少女に興味が湧いたのはこの話しを聞いてからだった。歌を聴いてでもあったけど。


「フレン聴きました?!ああ、噂に聞いていたよりずっと綺麗な歌声です…さあ、なまえに会いにいきましょう!」

エステリーゼ様は僕の手を引いて会場の裏に向かった。



「なまえー!素敵です!綺麗です!大好きです!!」

裏でアンコールに備えて、喉を潤していたなまえに、抱き着くお姫様。

「ありがとうございます、エステリーゼ様。こんな大勢の前で歌うのは初めてなので上手く歌えたか心配だったんです」

喋る声すら、鈴のなるような声ですっと耳に入ってくるのが気持ちいい。
そしてこっちを向いた彼女は、深々とお辞儀をした。

「フレン様、ですね。お噂は兼がねお伺いしております。」

顔をあげて微笑む顔は、僕よりだいぶ若かった。

「悪い噂じゃなかったら嬉しいです」

そう微笑み返すとこれまた鈴のように笑って、いえ、凄く良い噂です、と言った。

「なまえ、後で私のお部屋にいらして下さい!沢山お話ししましょう!」
「はい、ぜひ。エステリーゼ様とお友達になりたいです。過ぎた願いではありますが…」
「友達…!ぜひ!」

そして、アンコールに痺れを切らしそうなお客様が待っているので、となまえは再び会場に上がっていく。
その瞬間聞こえてくる歓声は、「最後に、もう一曲だけ」というなまえの鶴の一声で、静けさを呼んだ。



陽が暮れ、兵が仮設会場を片し、そこに集まっていた人々も解散した頃にはもう普通の帝都に戻っていた。

そんな間も僕は姫様の部屋の前で見張りをしていた。
二人で話しているらしい。たまに笑った声が聞こえたりする。

そして暫くすると二人で出て来た

「フレン、私はもう平気です。なまえを宿まで送ってあげてください。お泊りをしませんかとお誘いしたのですが…」
「申し訳ありません、エステル様。また後日に…今日はもう既に宿を取って荷物も置いてきてしまいましたので」
「もうっ、なまえ!様と敬語はは無しって言ったじゃないですか」
「ふふ、ごめんなさい、エステル」

ドアの前に出ても仲良く話す二人を、微笑ましく思う。
彼女ならエステリーゼ様の友達、となっても誰も咎めはしないだろう。

「ではフレン。頼みます」
「畏まりました。なまえ様、宿はどちらでしょうか」
「市民街の…」

姫様に見送られ、僕は歌姫の護衛に着いた。




道中は無言にはならなかった。
彼女の話す声が聞きたい、彼女の事が知りたいという欲求が質問を溢れさせたから。

「なまえ様は…」
「様はいりません、フレン様」
「じゃあ僕もいりません」

という会話から始まった。
その言い合いに笑い合う二人。

それからは僕の質問攻めになる。
何歳なのか、なぜそんなに歌が上手いのか、一人で旅が出来るのは何故か、など。
彼女は投げかける質問にひとつひとつ丁寧に答えてくれた。
年齢は僕と一緒。えらく幼く見えたのでそれを正直に言ったら「童顔なんです」と笑われた。
歌が上手いのは、小さい頃から歌が好きだったからだそうだ。

最後の質問には、少し考えていた。そして開いた口からは

「剣の腕はありません。ただこの歌が…、何故か少し歌を口にしただけで魔物が眠ってしまうんです。だからその間にすたこらと逃げて旅をしてます。」

という答えが飛び出た。

「そう、なんだ」
「いつから身についた技か知りませんが、魔物を手にかけなくていいのでありがたく思ってます」

また笑った。
ああ、なんでなまえの笑顔を見ると落ち着くんだろう。

「それなら、喉は大事にしないといけないね」
「はい!喉は命、ですから」

そしてもうすぐ宿に着くと言うときに、彼女は「あ!」と言い、少し広い場所だったそこの真ん中に立った。

まるで、月の光に照らされたステージのよう。

「フレンが、今日安らかな眠りに就けるように」

そう言って小さく歌い出すなまえ。
昼のように演奏者がいないので、素のまま聞こえるなまえの歌。
小さく、優しい旋律の歌が眠りを誘った。

危うく立ったまま寝てしまいそうになった所で、彼女が唄い終わる。

「ありがとう、なまえ。ゆっくり寝れそうだよ」

素直な感想と、お礼の言葉を言うと満面の笑みを返してくれた。


そして宿まで送り届け、別れた。


その日は、ゆっくり眠れた。
そして夢を見た。
なまえが様々な色彩の花畑で大きく手を伸ばして歌っている。
それを横で座って聴く僕。
時々こちらを見るなまえと微笑み合う。


そんな幸せに満ち溢れたまま、目を覚ました。

「(なんて夢を…僕は)」

自分の奥底に眠る希望が夢になるという。自分がこんな事を望んでいたのかと恥ずかしくなった。

そして起きた自分に下された命は
「フレン!なまえの宿まで連れていってください」
というお姫様の護衛だった。

また会えると心の中で喜ぶ自分がいるのを認めると、また夢を思い出して恥ずかしくなってしまう。

しかし宿に着くと彼女は居なかった。受付に聞くと、荷物は預けてあるので帝都を離れてはないらしい。

「どこに行ったのでしょう、なまえ……あ」

宿を出て一旦城に戻ろうとする僕達の耳に、うっすら聞こえて来た声。
それは市民街の橋の上だった。

座った子供達に囲まれ、同じく座って歌っているなまえがいた。
子供の中には下町の子も混じっている。その子供達の後ろにおじいさんや、おばあさんなどの老人方が聴いていた。

「…―♪―♪」

子供達にも聴きやすい楽し気な歌を唄っているらしい。

唄い終わって、立ち上がった子供達はありがとうと言ってまた遊びに戻っていき、老人達もお礼としてお金を渡されていたが断っていた。

「お金が欲しくて唄ったんじゃありません。さっきの子供達や御祖父様や御祖母様方に喜んで頂けるのが私の生きる源ですから」

と言う声が聞こえてしまう。
何故か更になまえに対する不思議な想いが膨らんだ。
笑ってお金を返して、ありがとうありがとうと何度も言う老人達を見送ったなまえに近づく。
後ろから飛びついたエステリーゼ様に、びっくりしたのかなまえの肩が跳ねた。

「なまえ〜〜!素敵です!素晴らしいですっ!」
「わ、見られてしまいました…昨日聴けなかった子供達や御老人がいらっしゃったようで、唄って欲しいと言われてしまって」
「だから特別公演、ですね」
「そう、その通り」

ふふっと笑い合う二人は本当に仲の良い友人に見える。
なぜか、少し妬けた。

「フレン、昨日はよく眠れた?」
「ああ、いい夢も見れた。ありがとう」

自分に話しを振られた事が凄く嬉しかった。
どんどん、彼女に惹かれているんだと、今更気付く。
昨日出会って、1日なのに。

「フレンがよく眠れるおまじないでもしたんです?」
「ええ、エステルにも今度してあげるね」
「まあ!約束ですよ、なまえ」

前を歩く二人の姫。
後ろをあるく騎士は、どうしようもないこの想いを爆発しないようにと必死なのだ。

「今日エステルのお部屋に泊まったらね、また旅に出ようと思ってるの」

その言葉に驚いたのは、エステリーゼ様よりも自分だと思う。
声も出ず、足も止まってしまった。
今から積み重なろうとしている想いは、土台を作ったその場で崩されてしまうのか。

「もう、ですか?もう少しゆっくりしていってください!」
「そんな宿屋代もないから…」
「では衣食住があればいいんですね」

最後の言葉は僕が発したもの。
自分で、何を言い出すんだと抑えようとしても、彼女と離れたくないあまりその抑制さえ効かない。

「僕は、なまえを僕だけの歌姫にしたい」

するっと出てきた言葉に、何を言ったか理解した頃には、エステリーゼ様は「まあ!」と喜び、なまえは顔を真っ赤にし、そしてそれ以上に自分の顔が真っ赤になっていた。

「いや、そのっ」
「衣食住の用意に、その言葉は、プ…プロポーズなのでしょうか」
「いや、まだ会って1日だし、そんなんじゃなくて、いや、いつかそうなりたいとは思うけどまだ付き合いを経てというか」

あまりに慌てた僕の様子に、顔が真っ赤のままのなまえが笑った。

「なまえ、フレンになまえは勿体ないですけど、お勧めできます!」
「エステリーゼ様、あまりフォローになってません…」

またそんな二人を見て面白かったのか更になまえが笑う。

「フレンの噂は色々聞いてるって言いました、よね」

頷く僕に、続けて言葉を紡ぐ鈴のような声。

「噂を聞けは聞くほど、貴方に会いたくなって、私はずっとフレンに恋を…してました」


嬉しさが、絶頂に達した僕は

前を行っていたなまえを、抱きしめた。
エステリーゼ様が居るにも関わらず。



僕だって、きっと前世から恋をしてたんだ
じゃないとこんな惹かれる訳がない。



「私がお城になまえのお部屋を用意させます!」
「え、そんな悪いからエステル!」
「いいんですっ!誰にも文句は言わせません。お風呂おトイレとドレスに三食付きですよ!」
「もっと申し訳ないよぉ…」
「(フレンと一緒に暮らすようになりそうなのでそれだけは阻止します!なまえは私のです)」

「(なんでだろう、エステリーゼ様の視線が怖い…)」






アル/トネ/リコ3のPV見てると志方さん欠乏症になり志方さんアルバム聴いてると浮かんだお話。
音楽聴きながら書いたので噛み合わないとことかあったら言って下さい…
20100115

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あきゅろす。
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