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距離0o(ユーリ)


船の上で海を見る。
吸い込まれて、波に揺られながら消えてしまえたらと思ってしまう。

ユーリは悪くない。
優しいだけ。すごく。

だから許せなかった。
なぜあなただけがそんな覚悟を背負い込んだのかと。


なぜ、自分だけで罪を背負うのか…と。


怒鳴りつけてしまった。

みんなの前で。

私を、私達を信じてなかったのかと。
そんなはずないのに、激情にまかせて。



潮風を受けて少し寒いと思ったら後ろからぱさりと暖かいものがかけられた。

「風邪、ひきますよ」

「エステル…」

優しく笑うピンクのお姫様は自分の防寒はしないで私に軽い毛布をくれた。


「寒いよ、エステルも入ろ」

軽くても広さはある毛布を広げる。
すると彼女は「まあ!」と言いながら喜々として横に来た。

女二人、恋人のようにくっつきあう。
ちなみに私達はそんな関係ではない。

「ユーリのこと、考えてたんです?」
「…うん」

ゆっくりと、引き出すように聞いてきたエステルに、嘘は通じない。
正直にぽつぽつと話す。

「なんかね、いつも隣にいて、笑って大好きって言っても…全然近くなかったんだって」

私の独り言みたいな話しを、彼女はじっと聞いてくれた。

「なまえは、ユーリのことが本当に好きなんですね」
「……うん」
「大丈夫です。近くないと思うのはなまえがユーリを心配している証拠ですよ」
「そう、かな」
「はい!近くなかったから気付けなかったとなまえは自分を責めてしまっているんです」
「私が、距離を勝手に作ってしまったんだね」

必死に励ましてくれるエステルに自然と心が綻ぶ。
ベリウスのことで、辛いのはエステルなのに。
ありがとう、と言うとにっこり笑ってくれた。

「…!…なまえ、中に入りませんか?」
「そだね」
「じゃあ、立ってください!」

ただ立ち上がることなのに、先に立ったエステルは満面の笑みで手を伸ばす。

その手を取って立ち上がったら

「パス、です!」

と身体を押された。

倒れると思った身体は固い胸板に受け止められる。
上を見るとユーリの顔。
前をみるともんのすっごい笑顔のエステル。

捕まったんだと理解した。

「なーにオレ抜きでいちゃいちゃしてんだよ」

降ってくる声に、少し身体が強張る。
さっき怒鳴ってしまってから避けていたから。

「なまえ、なまえの思っている距離は幻想、です。本当の近さを見てください!」

そう言ってエステルは去っていった。


残されたのは私とユーリ。
今だ後ろから捕獲されたまま。
「なまえ…」
「なに」
「ごめん、な」
悲しげに言う彼は、覚悟を決めたんだと強く言ったあの時とは逆だった。

弱く、緩く、抱きしめられる。

「なまえを信じてなかったわけじゃない」
「わかってる…」
「こんな手で抱きしめていいとも思ってない」
「そんなこと…」

ないのに。
自意識過剰かもしれない。
でも、そうあってほしい。
彼は私を愛してくれているからこそ、汚れた手を振りほどかれるのが怖かったんだと。

ただ、優しさ、皆を巻き込みたくないという思いとは別の、私だけに向けられた感情があったんだ。

「私は、ユーリの手が汚れてるとは思わない」
「なまえ」
「正義の手、私を守ってくれる手」

後ろから回された手に自分の手を重ねる。
距離を作ってたのは、ユーリかもしれない。
お互いが勝手に距離を取って、すごく遠くにいるように感じてしまっていただけかもしれない。
エステルが気付かせてくれなかったら、まだお互いの距離が妄想だと気付けなかっただろう。

「ありがとう」

ユーリにむけて、そしてエステルにむけて囁いた言葉は、誰に聞こえたんだろう。


身体を反転させて、私しかわからない泣きそうなユーリの顔ににささやかなキスを送った。



o
こんな弱いユーリは、私しか知らない











時間軸不明なり。
きゅもーるさんが砂の中埋まった後なのは確か。
ノードポリカ出たくらいかな?

20100105

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あきゅろす。
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