プリンセスのロック
第2話
程なくして、千耶と購買の弁当を持った龍也が教室に入ってきた。二人が席についてから、麻里加が訊く。
「あれ?千耶…髪型変えたの?」
千耶は髪を切っていた。短いと言える髪を結んでいる。千耶は照れくさそうに答えた。
「うん。彼氏が、髪短い方がいいって言うから」
「・・・彼氏?」
私と麻里加の声が被る。
「うん。私、竹下君と付き合うことにしたの」
「ええーーー!」
千耶のいう竹下君が誰かは知らないが、千耶に、彼氏。なんだか、想像できない。龍也がお弁当の中の卵焼きを半分に切りながら言った。
「俺らも今朝聞いたんだけど、びっくりしたよ。千耶、彼女として、竹下君とやらの視力を心配してやったら?」
「どういう意味よー」
千耶が、さっき龍也に半分にされた卵焼きの片割れをつまむ。
「あ!」
「これで許してあげる。安いでしょ?」
二人のやり取りなんてまるで眼中にない麻里加が胸に手を当てながら呟く。
「彼氏かー。恋人がいるって、どんな感じなのかな」
千耶が自分のお弁当の包みを開きながら首を傾げた。
「麻里加、好きな人とかいないの?」
心臓が跳ねた。
鼓動が聞こえる。頭が熱くなる。
麻里加がふわんとした声で答えるのが、遠くに聞こえた。
「うん。いないよ」
箸を握る力が強くなる。私は思わず永瀬の方を見た。
――目があった。
一瞬のことだ。永瀬はすぐ視線をお弁当箱に戻した。
麻里加の言葉に、永瀬はどんな表情をしているのだろうと思った。でも麻里加の発言の後、永瀬も私を見たのだ。私と同じことを考えたのかは分からない。
…びっくりした。
「そっかー。麻里加は可愛いのになー。ケイはケイで好きな人いないって、前に言ってたよね」
麻里加が好きだなんて、言える訳ないから。千耶の言葉に微笑んでおく。
「私はどうやら女子からの方が、モテるみたいだからね」
実際、そうだ。
手作りのバレンタインチョコレートを後輩たちから山程貰ったりしていた。
決して食べることはなかったけれど。
「そういう訳で、この前話してた遊園地のこと、余ったチケットは竹下君にってことで、いい?」
「うん、いいよ」
遊園地。
6枚のチケット。正確には、ペア3組。皆で遊園地に行くことになった時、チケットショップで購入したものだ。私と、麻里加と、永瀬と龍也と、千耶と竹下君で、今度の週末に行く。余ったチケットで他に誘いたい人がいれば誘う筈だったが、結局それは竹下君になった。
「初デートが遊園地かあ。映画館の方が無難な気はするけど」
そう言いつつも千耶は嬉しそうだ。
――恋人がいるって、どんな感じなのかな。
麻里加と同じことを私も考えていた。
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