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00≫≫2nd SEASON
Are you free tonight?
(ティエリア+ライル)



『クリスマスは家族で過ごすもの。新年は恋人と迎えるもの』

―――そう偉そうに言ったから、いつか僕と新年を迎えてくれるのかと期待させた愚かなあの人は、とうとう一度も一緒に新年を迎える事の無いまま逝ってしまって…。

それから五年も経った今、新年を迎えようというこの瞬間、何故か隣にはその人の弟が居る。

「新年は恋人と迎えるものなんだよ」

同じ遺伝子のその弟は、姿も声もそっくりそのままだったが性格はまるで違う。
なのに同じ事を言うので、双子というのは面白いものだと思った。

「僕は君とそういう関係になった覚えはない」

「俺だってあんたを口説いた覚えはない」

それでもこんなカップルだらけの所に一人で来るのは嫌なんだ、と大人げなく顔をしかめる。

つまりは単に見栄を張りたいだけらしい。

「無理に外出なんかしなければ良い」

「嫌だね」

…まったく、どれだけ我が儘なんだ。

足速に歩く彼の隣を呆れながら、それでも速度を合わせて歩く僕も随分寛容になったものだ。

「こういう事はスメラギ・李ノリエガにでも…」

「あの姉さんを誘ったんじゃ金がいくらあっても足りない」

絶対に高そうな店に引きずり込まれて酒を奢らされるんだ、と妙に確信をもって言われ、僕は彼女をフォローする事を早々に諦めた。

「なら、フェルト」

「あの子は俺を嫌ってる」

「ミレイナ」

「俺を犯罪者にする気か?」

「アニュー」

彼女の名前に彼はピタリと足を止めた。

僕は数歩先を歩いて、急に止まった彼を不思議に思い振り返ると、彼はがっくりとうなだれ顔に落胆の色を表した。

「誘ったよ!誘った…けど…」

「………断られたのか…」

…情けない。

立ち止まる彼を追い越す人込みすら、心なしか彼の悲痛な思いを憐れんでいる様に彼を避けていく。

「まったく…それでよく『狙い撃つぜ』とか言えたものだ」

うなだれたままの彼をそのままにしておく事も出来ず、彼の手を引いて人波に乗った。

「悪かったな…どうせ俺は兄さんより命中率が悪いよ」

「また、そういう…」

冗談のつもりで言った言葉も、今の彼には通じなかった。

…どうも彼は落ち込むと卑屈になる癖がある様だ。

いい加減ウザイと溜め息を漏らした時、闇を映した空が明るく輝く。

「ああ…新年だ」

彼と僕の腕の長さ分、僕の後ろに居た彼は空を眺めながらその距離を詰めた。

「花火…?」

僕の目には、空に輝く色とりどりの大輪の花。


これが、花火…。


データ上でしか知らないそれは、開く時の音はまるで爆撃の様なのに、上がる人々の声は悲鳴ではなく喜びの歓声。

僕は初めて見る花火に目を奪われていた。

「綺麗だろう?」

くっ、と繋いだままの手の平に力が加わったのを感じ、僕は横に居る彼の顔を見上げる。

花火の光を浴びた精悍な横顔が僕の手を繋ぎながら遠くを見ているのに、僕は目を細めた。

「ここで毎年、新年になると同時に花火を上げるイベントをやってるんだ。テロで両親と妹が死んで、親戚が居るこの土地に移り住んでから、兄さんが居なくなるまでは毎年二人で来てた」

「ロックオン、と…」

「こうやって手を繋いでな」

僕の声が強張って聞こえたのか、彼は繋いだ僕の手を持ち上げ、笑って僕を安心させてくれる。

「…良かったのか?僕を連れてきて」

「良いさ。兄さんもあんたにこれを見せてやりたかっただろうからな」

「…だと、良いな」

もしあの人が、そう思ってくれていたなら…。

「俺が保証する」

彼はそう言って、また空に咲く花に視線を遣った。


かつてあの人と繋いだ手を僕に繋いで、年が変わる瞬間に思い出の花火をわざわざ僕に………。

アニューに断られたというのも、意外に嘘なのかもしれない。

…そう思うと、その不器用な優しさに笑いが漏れる。


「…なに笑ってんだよ」

訝し気に僕を見る彼の手をそっと離した。

「…いや、今年も宜しく。ロックオン」

代わりに、右手を差し出す。

彼は少し驚いた様子を見せ、そして僕の右手に同じように右手を重ねた。

「ああ…お手柔らかにな?ティエリア」

ぐっ、と握られた右手には、手を繋いだ時の温かさではなく、力強さが残った。

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