00≫≫2nd SEASON
優しい人
(ティエリア+ラッセ)
『泣くなよ』
そう言って、大きくて節くれだった手で乱暴に僕の頭を撫でた。
決まってあの人を思い出して崩れそうになる時。
『泣くなよ』
僕を支えてくれるでもなく、包んでくれるでもなく、たったそれだけを言って頭を撫でてくれた。
その優しさは、あの人の真綿に包むような優しさでは無かったけれど―――。
「ラッセ!ラッセ・アイオン!」
プトレマイオスの通路を行く彼の背中を呼び止めた。
「どうした?」
いつもと何も変わらない様子で僕を振り返る彼に、僕は何を言えば良いのか解らなかった。
ラッセのメディカルチェックの結果を知って、何故かすぐに彼を探した。
頭が理解する前に体が動いた。
だけど、何を言えば良いのか解らない。
あの人ならどうする?
あの人なら何を言う?
いつもそれを考えて行動していた筈だ。
それなのに、今の僕にはその答えが全く見えない。
「…メディカルチェックの、結果…を…」
何かを言わなくては、と肺を絞って出た実に馬鹿の様な言葉にラッセは『ああ…』と、きっとスメラギ・李・ノリエガにも見せたであろう諦めにも似た複雑な表情を見せ、そして一瞬後にはその精悍な顔を綻ばせたのだ。
それは、僕だけに見せる顔だと自惚れても良いのだろうか。
「泣くなよ、ティエリア」
そう言って、大きな手で僕の頭を撫でる。
「…………っ、く…」
堪えきれず、涙が流れた。
ラッセは笑顔のまま、僕の頭を撫で続ける。
「泣くなよ」
僕は眼鏡を外し、袖で乱暴に涙を拭った。
それでも止まらない涙を彼は咎める事はせず、ただ『泣くなよ』と笑って乱暴に頭を撫でてくれる。
その優しさは『泣いても良い』と言ってくれるあの人の真綿に包むような優しさでは無いけれど、僕はそれを失いたくないと思った。
お願い、カミサマ。
もうこの世界から、優しい人を奪わないで。
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