00≫≫2nd SEASON 僕らしくない行動の原因 (ティエリア+ミレイナ) どうしてこんな事になってるのか僕には解らない。 イアンに頼まれてミレイナに勉強を教えていた筈だ。 …そうだ。 ミレイナの苦手な歴史の勉強。 隣に座って教えていたのは、約三百年前のアメリカ初の黒人大統領の話し…だった筈。 「アーデさんの手、綺麗ですぅ!」 ペンを握るのに邪魔だった手袋はテーブルの端に畳んで置いてある。 ミレイナもそれに倣って自分の白い手袋を畳んで置いて、初めはちゃんとペンを握っていたんだ。 それなのに何故、彼女は今僕の手を握っている? 「…ミレイナ、そろそろ離してくれないか?」 「すべすべー…」 「聞け」 人の話しを聞く気すら無いミレイナは、きっととうに勉強への集中力は切れている。 面白い玩具を見付けたかの様に僕の手を離さない。 親指から小指、手の平から爪の先まで、きっと僕の左手で彼女が触っていない所は無いだろう。 この年頃の女性は何に興味を持つか解ったものではない。 そういえば、僕の髪が綺麗だと延々触り続けた事もあった。 「良いなぁ」 ようやく僕の手を離したミレイナに、僕は深く息を吐いた。 ミレイナから取り戻した左手を軽く摩りながら彼女を見れば、両手をパーに広げて目の前に翳している。 オペレーターだけではなく、時に父親のイアンと共に整備も行う彼女の手は、小さな傷と油が染み付く働く者の手。 ミレイナはその手を見ながら、ポツリと悲しそうに呟いた。 「ミレイナもアーデさんみたいな綺麗な手になりたいな…」 まったく…この年頃の女性は面倒臭い。 「………ミレイナの手は綺麗だ」 僕が言えば、ミレイナは憤慨した様に返す。 「ミレイナの手は綺麗じゃないですよぅ!」 爪も短いし、油まみれだし…と膨れるミレイナの右手を、僕はさっき僕が彼女にされた様に握った。 驚く彼女に僕は思った事を伝える。 「この手が頑張ってくれてるから僕は安心してセラヴィーに乗れる」 「へ?」 「僕達の命を守るこの手を、どうして美しくないと言える?」 言いながら、僕はミレイナの手の甲に唇を寄せた。 眼鏡越しに上目でミレイナを見れば、幼い頬は朱く染まっていた。 「アーデさん…王子様みたいですぅ!」 まったく…僕らしくない事をした。 照れ隠しか一人で騒ぐミレイナは、多分もう勉強をする気も無いだろう。 傍らの手袋に伸ばす自分の手が、ふと目に留まった。 …―――あの人も…さっき僕がミレイナにした様に、この手に口付けて綺麗だと褒めてくれたのを思い出した。 [戻る] |