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00≫≫2nd SEASON
ハサミ
(ライル+ティエリア)



兄さんに似てると言われて嫌な訳じゃない。

最初は俺を見て驚く人達を見て、確かにここに兄さんは居たんだと感慨深い思いでいたし、その反応が面白くもあった。

だけど、同じ名前を与えられ、同じ様な性能のガンダムに乗り、同じ様に狙い撃っても兄さんの壁を越えられない自分に、次第に兄さんと一緒に居た頃のジレンマを思い出した。


いつも比べられる。


父さんも母さんも、エイミーだって兄さんと俺を比べて『ニールの方が』『ライルの方が』何ていつも俺達は比較されていた。

兄さんが消息不明になって以来忘れていた感情をこの年になって思い出すなんて………クソッ!


真上に投げていたハロを床に放り投げた時、部屋の扉が来訪者を告げた。

「…はいはーい」

溜め息と共に扉を開けると、そこには紫の美人が立っていた。

不機嫌そうに俯く姿から、またシミュレーションの成績の悪さを咎められるのかと僅かに視線を落とすと、ティエリアの右手に何かが握られているのが目に入る。

「―――?!」

瞬間。
それが俺の顔の横を掠める。

咄嗟に避けたそれは、俺の髪を一筋床に落とした。

「チッ!」

舌打ちをして尚も襲い掛かろうとするティエリアの右手にはハサミ。

その切っ先は確実に俺に向いている。

「ちょっ…テメ!気でも狂ったか?!」

ティエリアの右手を押さえるが、流石ガンダムマイスター。
ひ弱そうに見えて体術は心得ているらしい。
俺の体はティエリアと共に床に押し倒された。

「嫌なら頭でも丸めろ!」

「はぁ?!」

何言ってんだ、こいつ?!

「比べられるのが嫌なら髪型でも変えろと言っている!」

「何、だと…!」

ギリギリとティエリアの右手と俺の左手の間で揺れるハサミを、手首を締め上げる事でようやくその手から離させた。

カシャン、と硬い音を立てて床に落ちるハサミを横目で見ながら俺に降り注ぐティエリアの怒りと侮蔑に満ちた視線を『綺麗な顔だな』と受け止めた。

「…フェルトが泣いていた」

何だよ、その事かよ…。

「何、あんた…彼女が好きなの?」

「違う。だけどフェルトが泣いていた事は見過ごせない」

からかう様に言ってもティエリアは即答。

ああ、こいつって本当に冗談が通じない。

「だからってハサミを握って乗り込むか?」

仰向けの俺に跨がる美人…出来ればベッドの上で体験したかった。

「そっくりな君が悪い」

ティエリアが神経質そうな指先で俺の顔を確かめる様に頬をなぞる。

「俺が悪いのかよ?双子なんだから仕方ねぇだろ」

「だから坊主にしろ」

次に髪に触れた。

「嫌だね」

物騒な事を言うのにその手つきは酷く柔らかで、俺は目を閉じる。

「………いい歳して出来の良い兄に劣等感を抱いて人に当たるんじゃない」

「別にそういう訳じゃ…」

…っていうか、やっぱり兄さんの方が出来が良いって思ってんのかよ。

薄く目を開けると、ティエリアは口元に笑みを湛えながら、目元は少し悲しそうな、そんな複雑な表情をしていた。

「今はまだ彼と過ごした時間の方が大きい。解っていても重ねてしまう…その内、君は君だと理解するさ」

だから君がそんなに気の短い事じゃ困る、とティエリアは俺の上からどいた。

「それまで俺が我慢しなきゃならんのか?」

無くなった重みに僅かばかりの寂しさを覚えながら、ハサミを拾うティエリアの横顔を眺める。

「大人だろう?その位の我慢は覚えろ…それが嫌なら見た目を変えてしまう事だ」

だから『頭を丸めろ』かよ…やる事がいちいち過激だ。

「なぁ…」

声を掛けると、ティエリアは俺を振り返る。

その目には、もう悲しさとか、そんな感情は見えなかった。

「何だ?」

やっぱりあんたも―――…

「…いや、何でもない」

答えを聞きたくなくて、俺は言葉を濁した。

床にねっころがる俺を『邪魔だ』と蹴ってティエリアは部屋から出ていった。


でもやっぱり比べられたくはないよな。

特にティエリアには。

―――なぁ、そうだろ?兄さん。

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