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00≫≫2nd SEASON
dog-end
(ティエリア+ライル)



予想よりも似ていなかった。

安っぽい笑顔に、軽薄そうな言葉。
とても好きになれそうにないが、お陰で彼と重ね合わせる事も無く、かえって良かったと思っていた。


そんな表面だけ見て、安心していた。


同じ境遇の双子の片割れが心にあんな暗闇を抱いていたのに、もう一人は違うんだと………どうして僕はそう思えたんだろう―――。




「なぁ、煙草吸って良い?」

食堂で僕が食事をし終えた瞬間、ロックオンはそれを待ってましたとばかりに言い出した。

「…どうぞ」

「悪いね」

食後の一服は辞められないんだよな、と言いながら慣れた様子で煙草に火を点け、心底美味そうに煙を吐き出す。

僕が食事を終えるのを待っていたのは、どうやらこの男なりの礼儀らしい。


…つくづく似ていない。


あの人は飄々としている様に見えたが、それでもこの男に比べれば随分実直な人だった様に思える。

この男は何の為にここに居る?

家族の仇には見えない。

ああ、そうとも。
彼と同じ理由である筈が無い。

「…何?」

肘をついて目の前で煙草を吸う男を半ば睨む様に見ていると、その視線に気付いたロックオンは嫌味な笑顔で僕を見返す。

「君は何の為にここに居る?」

「おいおい、スカウトしといてそりゃ無いだろ?」

「いつか僕達は咎を受ける。君にその覚悟がある様に思えない」

彼が呟いた言葉を、思い出す。
僕達はきっと破滅に向かって歩いているんだ、と妙に納得した。

この男は、そんな事を考えもしないんだろう………なんて、見下していた。

「それをあんたに教えたのは…兄さんか?」

ロックオンの声色が変わった。

「………」

空気が張り詰める気がして、僕は息を飲む。

「下らねぇな。誰が罰を下すってんだ?神か?あんたは神を信じてんのか?」

「それは…!」

あまりの物言いに反論しようと声を荒げたが、ロックオンのそれは僕の勢いを削いだ。

「あのな、俺は神を信じていない。例えいたとしても…そうだな…」

ロックオンは煙を燻らす煙草に目を遣った。

「…この煙草…これは健康に悪い。こいつは何百年にも渡って人を殺し続けてきた。だが、この吸い殻に罰を下そうなんて思う奴は居るか?」


…何を言ってるんだ?


ロックオンは大きく煙を吸い、それを一気に吐き出すと、短くなったそれを左手で握り潰した。

「…神にとっちゃ、人間なんてこの吸い殻くらいの価値しか無いって事さ」

無惨に握り潰された吸い殻を、携帯用の吸い殻入れに落とした。

不愉快な煙の向こう、その暗い表情は、酷くニール・ディランディと重なって見える。

「人を殺したから咎を受ける―――そんなの、脅し文句か…じゃ無かったら、楽になる為の言い訳だ」

真っ直ぐに見詰められて言われたそれは、まるで全てを否定された様な絶望。


その顔で言うな。
その声で言うな。


例えどんなに愚かであろうと、誰も彼の生き方を、死を、貶るのは許さない…!


それなのに、反論する術を持たない僕は、ただこの男の前で泣くものかと必死に歯を食いしばるしか無かった。

ロックオンは椅子から立ち上がり、僕の横に立つ。

そして、まるで慰めるかの様に僕の頭を撫でた。

「俺が何でここに居るか…だっけ?」

僕の頭を撫でながら、ロックオンはゆっくりと左手を開く。

「…神に一矢報いたくなったからだ…吸い殻も、火傷くらいなら負わせられるだろう?」

僕に開いて見せた左手は、手袋が少し焦げていた。


愚かな男だ。


その愚かさは、まるで死んだ家族の為に己の手を血で汚した悲しさによく似ている。

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