00≫≫2nd SEASON
self-contradiction
(ライル+ティエリア)
『ライル、愛してるわ―――…』
今でも、鮮明にその声が聞こえる。
柔らかくて暖かい声。
何もかもが好きだ。
その声も、顔も容姿も纏っている空気も。
…性格は、たまに合わない所があったけど。
それでも俺にとって一番の女性だったんだと思う。
もう夢の中でしか会えない彼女。
過去でしかなくなった彼女を愛し続けるのは、未来に生きようとしている俺の中の矛盾。
そんな過去を漂っている俺を、無理矢理引き上げる声。
「…―――ロックオン・ストラトス!!」
「…っ?!」
ビクリ、と体が震えて瞼を上げると視界いっぱいに綺麗な顔が広がった。
一瞬、アニューかと思った。
「おはよう」
その声はアニューよりも低く、凛としていた。
「…おはよ」
ああ、ティエリアか…と頭が処理をするのに僅かばかり時間を要した。
「こんな所で眠るんじゃない」
こんな所とはケルディムのコックピット内で、開いたハッチからティエリアが俺に乗り上げるようにして顔を見下ろしている。
「俺、閉めてなかった?」
ティエリアの向こう、開けっ放しのハッチを指差す。
ガンダムは外から開けられる構造じゃない筈だ。
「ハロが開けた」
言われてハロを探したが、すでにハロは勝手にどこかに行ってしまったようで、その存在が無い事を確認してしまうとティエリアと二人きりなのをまざまざと思い知らされる。
「………」
起きたのに俺の上から退こうとしないティエリアのせいで、俺は身動きが取れずその顔を見詰めるしかなかった。
「…何だ?」
不躾な俺の視線に不愉快だとでも言いたげなティエリアに『あんたが退かないからだろう』という文句はとりあえず頭の隅に追いやった。
その状況を良い事に見惚れていたのは事実だ。
「…綺麗な顔だなって思ってさ」
ティエリアは一瞬驚いた顔を見せると、綺麗に微笑んだ。
「ありがとう」
てっきり『茶化すな』と怒ると思っていたのに。
そういえば、アニューもとても綺麗に笑う女だった。
「ティエリア、俺と付き合わない?」
「まだ寝ぼけているのか?」
「ティエリアだって兄さんを忘れたいと思わないか?」
「…思わないよ」
ティエリアは寂しそうに、困ったように口元だけで笑って、それからゆっくりと惜しむような緩慢な動きで俺の上から体を離した。
その腕を引けば、簡単にティエリアは俺の胸の中に落ちてくるだろう。
そのまま、なし崩しで関係を持つ事だってきっと簡単だ。
まるでそれを待っているかのようにティエリアはじっと俺を見詰め、俺がそれをしない事を悟ると小さく息を吐いて背を向けた。
その行動は矛盾していないか?
ティエリアの背中にそっと投げ掛けた疑問は、そのまま俺の胸に跳ね返った。
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