00≫≫2nd SEASON
voice
(ティエリア+ライル)
彼は、少しだけあの人よりも優しい声をしていた。
似ていると思ったのはほんの僅かで、すぐに違うと思った。
それは四年間という時の流れのせいか、根本的に違う人間だからか。
面影はあるけれど、それだけだ。
「よ、ティエリア」
ロックオンは、頻繁に僕の部屋にやってくる。
最初は勝手が解らないからと言い、そうしている間にプライベートに入り込む様になった。
そして今日も。
いつもとは少しだけ、様子は違うけれど。
ベッドの上で本を読む僕の隣で、ロックオンは手持ち無沙汰に組んだ長い指を動かしていた。
そして何かを言いたそうに僕を見て、何度かそれを繰り返した後に意を決した様に僕に体を向けた。
「ティエリア…ティエリアは兄さんと………いや、何でもない」
僕は本から目を離さずに答える。
「恋人同士」
………なら、良かったのに。
上辺だけの関係、だったんだろう。
優しいから、こんな僕を放っておけなかっただけなんだろう。
「…やっぱり、な」
声に落胆の色を滲ませる。
「なら、何?」
ページをめくって三行目まで、たっぷりの時間を使って。
「ティエリア…!」
「…っ!」
突然、ロックオンが僕をベッドに押し倒して、僕は背中を強かに打ち付けた。
衝撃でズレた眼鏡を戻して真上を見上げると、部屋の照明で浮かび上がったロックオンのシルエットに一瞬、泣きそうになる。
「兄さんを忘れろとは言わない…でも、俺じゃ…代わりにもなれないか…?」
「………」
何故か読んでいた本の続きが気になって、手から落ちた本を横目で探した。
「ティエリア…」
何も答えない僕に、ロックオンはゆっくりと体重を傾けた。
唇が触れる瞬間。
「…僕を懐柔して、カタロンに流す情報でも得るつもりか?」
「?!」
驚いて僕の上から身を離そうとするロックオンの首を捕まえて、その唇に噛み付いた。
薄く開いた歯列を割って舌を差し入れ、絡める。
キスを教えてくれたのは、あの人だった。
その時は、幸せだと思っていたのに。
濡れた音を立てて唇を離すと、驚きと猜疑に満ちた蒼い瞳とぶつかった。
「…全然違う」
舌に残る初めて味わう煙草の苦味が、酷く不快だった。
「でも、嘘つきな所は似ているかもしれない」
癖のある茶色の髪に指を絡める。
「マイスターやクルーの個人情報以外なら好きにすれば良い。君のハロならたいていの情報は揃うだろう」
僕の言葉を聞いてロックオンは気まずくなったのか、ようやく俺の上から離れた。
無くなった体温に少し寂しいと感じたが、気付かない振りをする。
「ティエリア」
呼ばれて顔を上げると、扉に手を掛けたロックオンは悲しそうに笑って僕を振り返った。
「…俺は嘘つきだけど、兄さんは正直者だったんだぜ?」
そう言ったロックオンの声は、あの人よりも、少し優しかった。
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