00≫≫PARALLEL
気付く想いに瞼を閉じた 4
何で着いて来てしまったんだ。
―――何を期待してる?
パーティーの後、ライルに連れられて彼が宿泊するスウィートに通された。
鼻腔を擽る甘い香りは、流行りの香水の匂い。
ロックオンが纏っていたのは血と、硝煙の匂い。
慣れた様子で広すぎるそこを使うライルは、薄汚いテロリストに身を窶したロックオンとは違う。
馬鹿だ、本当に馬鹿だ。
こうやってロックオンと違う所を見せられては落胆し、嫌な気分ばかりが増すと言うのに。
なのに、同じ顔で笑うから。
同じ声で私を呼ぶから。
「ティエリア…」
肩を抱き寄せられ、その手が髪に触れた時、拒絶に体が震えた。
―――触るな。
ロックオンが触れた髪に、触れるな。
「………違う」
「え?」
「貴方は、違う…!」
ロックオンじゃない。
ライルの腕を振り払って己の不甲斐なさに顔を覆った。
本当に愚かだ、私は。
彼が撫でた髪を切る事も出来ずズルズルと伸ばして、未だにロックオンを求めている。
「…そういう事」
私の言葉に、ライルは全てを察して少しだけ冷めた目をした。
がっかりしたとばかりに溜め息を一つ零す。
「僕とニールは似てる?」
私から離れたライルは、夜景に反射するガラス越しに私を見た。
それは、宇宙の闇を映したガラス越しに見たロックオンの表情と同じだと思った。
別の人間だと解っているけれど、ライルの一つ一つの動作でロックオンを思い出せる程、二人は似ている。
「…はい」
「そうか…」
ライルは複雑そうに笑って、私を振り返った。
「ニールは…死んだのかな?」
「………」
私が黙り込んだのを答えと受け取ったのか、ライルはやっぱり…と、再び私を抱き寄せた。
「ごめん…少しだけ…」
そう言って私を抱きすくめるライルの体は少し震えていた。
「ティエリアはニールの恋人?」
ライルの声はさっきの明るさを取り戻していた。
けれど、私を抱きしめたまま離さなかったから、もしかしたら私には見せたくない表情をしているのかもしれない。
「…違います」
ちょうど良かった。
私だって、今の表情を見られたくない。
「違うの?ティエリアがあんまり必死だから、てっきりそうなのかと思ってた」
恥ずかしくて顔が熱くなった。
「必死に、見えますか?」
「妬けるくらいには」
思わず笑うと、ライルは『ニールに怒られる』と私をその腕から開放した。
何故、彼が怒るの?と問えば、まるで子供にするみたいにライルは私の頭を撫でた。
「僕とニールは良く似てるらしいから…言ったろ?一目惚れだって」
胸にじわりと広がるその焦がれる様な痛みを、今なら理解出来る。
―――貴方から聞けなかった言葉は、私の望んでいた言葉だと、自惚れても良いですか?
ロックオン、私は貴方が好きでした。
曖昧なままだったその気持ちは『愛情』という名だった事を知りました。
それを今更知るのはとても残酷で、それなのにとても優しくて、閉じた瞼から涙が溢れました。
私を好きだと言いながら頭を撫でてくれたライルの手の温かさは、ロックオン…貴方と同じです。
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