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00≫≫PARALLEL
利己的な遺伝子 2



夢の中に現れる彼は僕の記憶の中の彼と何も違わない。

欧米人特有の長い手足、甘い顔。
頑なな彼女の心を溶かした優しさや厳しさも、何もかもが完璧な男だ。

そしてその男は薄く微笑みを浮かべながら僕に言うのだ。

『お願いだ。あいつとあいつの希望を、守ってやってくれ―――…』



…―――そこで僕の意識は現実に戻った。

「………わかってますよ、ロックオン」

わざわざ夢枕に立たなくても良いじゃないか。
そんなに大事なら直接言ってやれば良いんだ。

…何て、僕が勝手に夢の中で捏造したロックオンに言った所で、どうしようもないけれど。



「おはよう、朝だよ。起きて?お姫様」

小さなベッドに眠る『娘』を起こすのが、僕の一日の始まり。
眠そうに抱っこをねだる彼女を抱き上げた。
首筋を擽る亜麻色のくるくるした髪。
柔らか過ぎて絡まったそれを、片手で撫でる様にそっと解していく。
白い肌も、碧い瞳も、ロックオンにそっくりで酷く辛い気持ちになる。

「おはよう、ティエリア」

「おはよう」

一足先に起きて朝の支度をしているティエリアの側に行くと、僕の腕からティエリアの腕に移る彼女。
何かコソコソとティエリアに耳打ちをして、笑い合っている。
そんな幸せな母子を、僕は見ない様に用意された朝食に意識を移す。

僕の所からは離されて置かれたそれに、思わず眉根が寄る。

僕はこの偽物の家庭を営む様になって、嫌いになった食べ物がある。
料理を覚えたティエリアがあんまり頻繁に出すからうんざりしてしまったのだ。

それはロックオンの好きな食べ物で、その食べ物を娘は大好きだと言う。

ああ…何て厭味な遺伝子なんだろう。


食後に膝の上に娘を乗せながら何気なくテレビを観ていると、地球連合・平和維持軍とやらのニュースがやっていた。
僕はそこにマリーの陰を探した。
人革連の軍人、ソーマ・ピーリスとして戦っていた彼女。
映像の片隅に居てくれないか、と…。

「…アレルヤ、テレビを消してくれないか」

ティエリアは子供を産んでから極端に戦争を嫌う様になった。
…嫌うというより、ただ避けている。

「軍事関係のニュースは子供に見せたくない」

何言ってるの、ティエリア?
その子供を育てている僕らは軍人より質の悪いテロリストじゃないか。

偽善者。

「アレルヤ!!」

ヒステリックにテレビの電源を落としたティエリア。
荒んだ空気に敏感に反応した娘が狂った様に泣き出して、僕の胸に縋り付いた。

「………ごめん」

立ちすくむティエリアに謝って、僕は泣き叫ぶ娘を宥める―――沢山の子供を殺したこの手で。




ロックオン。
もしかしたら貴方は死んで無いんじゃないかって思う事がある。
でもね、もしも貴方が現れても僕はこの家庭を渡すつもりは無いんだ。

この家族と共に生きる道よりも、死んだ家族の敵討ちを選んだ貴方なんかには、絶対あげないんだ。

貴方をずっと想っているティエリアと、貴方にそっくりな娘。
二人が笑っている場面を、僕は夫、そして父親という立場から蚊帳の外で守り続けるんだ。


そこに、僕の知らなかった答えがある様な気がする。

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