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00≫≫PARALLEL
学園メランコリア
〜a cultural festival〜



その教室の前で、ロックオンは思わず顔を引き攣らせた。

出口付近で泣き崩れる少女達、教室の中から引っ切り無しに聞こえる叫び声。

文化祭というお祭り騒ぎの中、阿鼻叫喚を描くここだけが明らかに異彩を放っている。

「…やり過ぎだ…ティエリア…」

思わず呟いた内緒の恋人の名前も、新たな叫びに掻き消された―――。



噂では『メイドカフェ』をやるような話しが出ていたらしいティエリアのクラスは、最終的には『お化け屋敷』に決定した。

そこには担任のスメラギが『お酒が飲めない飲食店なんて面倒なだけよ』なんていう言葉で全て決まったというような噂も乗っかってたが、まあ真実だろう。

ロックオンとしては、メイド姿のティエリアが見れないのを残念と取るべきか、それともティエリアのそんな姿を色んな奴に晒さなくて良かったと取るべきか…。

心中は複雑だったが、何より彼を驚かせたのはこのお化け屋敷にティエリアがえらく乗り気な事だった。

祭好きでも無ければオカルト趣味も無いはずだが、どうやら凝り性のツボに嵌まったらしい。

『やるなら徹底的に』―――そんなティエリアの言葉を聞き流し、あまつさえ微笑ましいと感じてしまった己を、ロックオンは後悔した。



引き攣る顔をそのままに受付を覗けば、ハプティズム兄弟の片割れ、アレルヤがご丁寧に血糊の着いた衣装と青白くメイクした顔で迎えた。

「あ…先生、入ります?」

「いや…遠慮しとくよ」

「その方が良いですよ…僕、やってる側なのに、気持ち悪くて…」

どうやら青白い顔はメイクでは無かったようだ。

「もう休憩か?」

「はい。しばらくは平穏ですよ」

アレルヤの言葉にロックオンは苦笑で答え、その場を後にする。

途中、少し遠回りをしてタコ焼きを買い、向かったのは図書室。

ここは文化祭の間は立入禁止にしてあり、外の喧騒が遠くに聞こえた。

スーツのジャケットに入れた鍵で扉を開けて中に入り、買ってきたタコ焼きをカウンターに置いてしばらく外を眺めているとパタパタと軽い足音が近付く。

ロックオンは立ち上がり、扉をそっと開けた。

「よう、お疲れさん」

「…っ!」

真っ白な着物にピンクのカーディガンを羽織ったティエリアが少し驚いた顔を見せ、恥ずかしげに顔を綻ばせると扉を開けようと上げた手を降ろした。



良く見ればピンクのカーディガンの下の白い着物には血糊が着いている。
流石に顔のメイクは落としているようだが、元々色白な上に類い稀な美貌は冷たささえ感じる。
ここまで来るのに一体何人を震え上がるらせたのか。

…せめて栄養を摂らせて血色を良くしてやろう。

「ほら、タコ焼き」

ロックオンが爪楊枝に刺したタコ焼きをティエリアの口に持っていくと、ティエリアは口を開けてタコ焼きを頬張る。

「これ食ったら一緒に回るか?」

少し冷めたタコ焼きを交互に口に運びながら、ロックオンはティエリアに尋ねる。

文化祭なら二人で歩いていても怪しまれる事は無いだろう、とロックオンが言うのにティエリアは逡巡を見せた。

「…いいです」

「何で…」

「一緒に歩けても、手は繋げないですから…」

ほんのり赤く染まった頬は、タコ焼きのせいじゃないだろう。

「…まったく、お前さんは…」

そんな風に言われては無理に連れ出せない。

ロックオンはやっぱり複雑な気持ちのまま、ティエリアの手を握る。

「ロックオン…」

「…文化祭、楽しいか?」

タコ焼きと一緒に買ったペットボトルのお茶で口を潤しながら聞くとティエリアは滅多に見せない満足気な笑顔を見せた。

「はい」


ああ、これは午後からもあの阿鼻叫喚は変えられそうにない。


心の中で青ざめた顔をしたアレルヤに『悪いな』と謝りながら、ロックオンはティエリアの頭を撫でた。

可愛い恋人に甘い自分はやはり教職には向いていないのかもしれないな、なんて思いながら。



「先生も後で来て下さいね」

「………え…マジで?」

己の甘さを酷く後悔した瞬間だった。




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【a cultural festival】=【文化祭】
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