00≫≫PARALLEL
学園メランコリア
〜summer vacation〜
「夏休み、一緒にどこか行くか?」
学校が夏休みに入る前、前期最後の図書委員の仕事をするティエリアにロックオンは言った。
ティエリアがその言葉に振り向けば、まるで屈託の無い笑顔でティエリアを見詰めるロックオンの視線にぶつかった。
少しだけ言葉を詰まらせて、ティエリアは顔を逸らした。
そして、無関心に言い放つ。
「暑いから嫌です」
「そうか?」
素っ気ないその態度にも別段、気を落とした風でも無いロックオン。
さっきの誘いは無かったかのように、いつもと変わらず、人が居ない隙にティエリアを名前で呼んでみたり、少し過剰なスキンシップを仕掛けたりとティエリアを困らせる。
そう、いつも困るのはティエリアの方。
勿論ロックオンもそれは知っている。
ティエリアが本当は夏休みに出掛けるのを嫌がっていない事だってロックオンには解っているのだ。
「じゃあ、夏休みに入ったら泊まりに来るか?」
「…はい」
少しだけ素直な返事をするティエリアに、ロックオンは苦笑を漏らした。
ティエリアがロックオンのマンションに来たのは、八月に入ってすぐ。
少し大袈裟な荷物が、しばらくこの家に泊まるつもりなのを物語っていて、ロックオンは嬉しさに顔を綻ばせ、ティエリアは顔を朱くした。
エアコンの効いた部屋で、テレビを見たり本を読んだり…割といつもと変わらない時間を過ごす。
せっかくの夏休みなんだ。
高校生ならもっと羽目を外して…とは言えないが、外に出て思い出くらい作ったら良いのに。
ロックオンはこっそりと溜め息をついて、本に夢中になっているティエリアを盗み見る。
するとティエリアは『何か?』と本から視線を上げた。
バレてたか、とロックオンは笑ってごまかす。
「…課題はどうした?」
「終わらせました」
「全部?」
「全部」
「…そりゃ…」
教師としては、毎日こつこつとやってくれるのが理想なのだが…。
ロックオンがティエリアを褒めてやるべきか考えあぐねていると、遠くで花火の音がした。
ティエリアがぴくりと反応したのを見て、ロックオンは立ち上がりカーテンを開けて窓の外を少し確認し、ティエリアを手招きする。
「ティエリア、花火が見えるぞ」
隣町の花火大会の打ち上げ花火は、マンションの最上階にあるロックオンの部屋からは良く見えた。
「本当だ」
ズレる音が不自然なそれを食い入る様に見ているティエリアの、窓ガラスに置いた手にロックオンは自分の手をそっと重ねた。
「…行きたかったか?」
「………」
「連れてってやったのに」
「知ってる人に会うかもしれない…」
「…そうだな」
やっぱり、本当は行きたかったんじゃないか…何て、ロックオンには言えない。
夏祭り、海水浴…あの花火を人込みの中ではぐれない様に手を繋いで見上げる…そんな当たり前の高校生の夏休み。
自分が教職を離れる事でティエリアに見せてやる事が叶うのなら、教師を辞めても良いかな…とは思うが、そんな事を言ったらティエリアに『万死に値する!』と言われかねない。
―――それでも、大人としては若者の生活は心配なんだ。
「後でコンビニ行かないか?」
ロックオンがおもむろに言うと、ティエリアは不思議そうにロックオンを見上げる。
ロックオンは悪戯っぽく片目を瞑った。
「それで花火買って、二人でやろうぜ」
花火を見たらそんな気分になった、とロックオンが笑うと、ティエリアは呆れた様に肩を落とした。
「…子供みたいだ」
「夏らしくて良いじゃないか」
文句を言いながら少し嬉しそうなティエリアの手をロックオンは握って、クライマックスに差し掛かる花火を二人で眺めた。
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【summer vacation】=【夏休み】
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