00≫≫PARALLEL
学園メランコリア
〜a school infirmary〜
この日は朝からあまり体調が良くなかった。
季節の替わり目による気温の変化と、面白いウェブサイトを見付けて夜更かししてしまった事による寝不足と、普段から満足に摂取しているとは言えない栄養状態。
これらの要因が重なり、ティエリアの体は体調不良を訴えている。
『暑いなぁ』とクラスメートの誰かが下敷きを団扇代わりに扇いでいるのを遠くで聞いて、暑さにのぼせているのかもしれない…とティエリアは改めて己の体調の悪さの原因を分析してみたが、原因はそれだけでは無いし、分析した所で早退しようとか保健室に行こうなどという考えは毛頭ないので、その思考も放棄した。
そうやってこの席にしがみついているのも、午前中の最後の授業がロックオンの授業だからにほかならない。
それが終わったら帰ろう………今日は委員の当番も無いし。
そう安易に考えて我慢し続けたのが悪かったのか、ロックオンが教壇に立つ頃には、もう授業どころでは無かった。
あ………吐きそう―――…
吐き気・目眩のオンパレードに、せめてこの授業は…とティエリアが耐えているのを、ロックオンは目敏く見付けた。
「…アーデ?お前、顔色悪いぞ?」
ロックオンがティエリアの顔を覗き込む。
微かにざわつく教室で、ロックオンはティエリアの額に手を当てる。
冷たくて気持ちの良い手の平に、ティエリアの吐き気は僅かに治まった。
「大、丈夫…です」
ティエリアが呟くと、ロックオンは眉根を寄せた。
どう見ても『大丈夫』じゃない。
熱は無い様だが、真っ青な顔色をしている。
ロックオンは誰にも知られない様な小さな舌打ちを一つすると、ティエリアを覗き込んでいた顔を上げクラスを振り返った。
「おい、このクラスの保健委員は?」
「あ、はい!僕です!」
カタン、と音を鳴らして後ろの方に座ったアレルヤが席を立った。
「じゃあ、アーデを保健室に連れてってやってくれ」
「はい」
「………」
アレルヤがティエリアの側に寄り、腕を取られて席から立たされる瞬間、僅かに泣きそうなティエリアの視線がロックオンの目に映る。
…まったく―――…。
溜め息を零したロックオンは、未だざわめく生徒達に注意をして授業に戻った。
ロックオンの授業を途中で抜けてしまうなんて、何たる失態………こんな事なら遅刻して来れば良かった。
運ばれた保健室のベッドの上で無機質な天井を見上げながら、ティエリアは独り言ちる。
思わず自分をここまで運んで来ただけのアレルヤにさえ文句を言いたくなった。
先程まで保健医のモレノがティエリアの熱や血圧を計ったりしていたが、そのモレノも今は席を外している。
窓から入る真昼の日差しは薄いカーテンで遮られ、時計の秒針の音がやけに響く。
ティエリアは誰も居ない静かな保健室で、そっと目を閉じた。
―――授業が終わったのか、チャイムの音が聞こえた。
暫くして誰かが近付く気配に、ティエリアは薄く目を開ける。
「起きたか?」
顔を覗かせたのは、ロックオンだった。
「………せん、せ…?」
「気分はどうだ?」
そう問われて、ティエリアは二、三まばたきをした後、吐き気や目眩は治まった事を伝えた。
そうか、と安心して胸を撫で下ろしたロックオンは、ティエリアの頬に手を伸ばしてそっと撫でてやる。
「…心配したんだぞ、ティエリア」
「………」
教師では無く、恋人のそれにティエリアは安心したのか、素直に謝る事をせず拗ねた様に視線を逸らせた。
ティエリアがこんな風に人を困らせるのは、甘えているからだと知っているロックオンは苦笑を漏らしてチラリと保健室の空間に目をやった。
ティエリアが訝しむと、誰も居ない事を確かめたロックオンは悪戯っぽく口の端を上げてティエリアを布団ごと抱きしめ、覆いかぶさる様に唇を重ね合わせる。
名残惜し気に唇が離れ、ティエリアがそっと目を開けるとロックオンはさっきまでの余裕のある笑顔を真剣な表情で隠していた。
「心配で…どうかなりそうだった…」
少し怒った様な碧い目と直接体に響く低い声に、ティエリアは遠ざかった筈の目眩が戻ってくるのを感じた。
どうやら、ティエリアの体調が戻るまでは少し時間が掛かりそうだ。
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【a school infirmary】=【保健室】
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