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00≫≫PARALLEL
雪葬。



「…悪いね、我が儘を言って」

そう言って窓の外を眺める貴方の瞳の色は、出会った頃と何も変わらない綺麗な碧。

彼が残り少ない余生に、と選んだのは生まれ育ったアイルランドの片田舎。

殆ど寝たきりだった彼もここに越してからは体調も良く、時折窓際に置いたゆったりとした椅子に腰掛け、窓の外を眺めている。


そんな彼を見ながら、ゆっくりと流れる時間を感じるのが好きだ。


肘置きに置かれた、年月を重ね皺が深く刻まれた手に、そっと自分の手を重ねる。

「いいえ、私もここが好きです」

貴方が居る、この場所が。

そう返事をすると、彼はふ…と微笑んで私の手を両の手で包んだ。

「ありがとう」

静かに、嬉しそうにそう言った貴方が愛しくて、唇を寄せる。
少し躊躇いを見せる彼を無視して、触れるだけのキスをした。

こんな年寄りに、といつもの様に貴方は困った様子で言う。

…まったく、年寄りはいつも同じ事を言うのだから。
その度に『愛してる』と言う私の気持ちを察して欲しいものだ。


貴方と寄り添って半世紀以上が過ぎた。

ヒトではない私は、貴方と同じ歳月をこの身に刻む事は無い。

歳を重ねる貴方と、ずっと同じ姿の私。

私は、そんな貴方を解放してあげられなかった。
共に歳を重ねるヒトとの当たり前の生活を奪って、私は貴方の一生を縛り付けた。


―――それも、随分遠い昔の話し。


「…知ってるか?ケルトには生まれ変わりの概念があるんだ」

ある冬の日、寒さに体調を崩した貴方は最期の時を迎えようとしていた。

枕元で、思い出を語りながら穏やかにその時を待つ私に、彼はおもむろに語り出した。

「生まれ変わって、またお前を愛そう。何度も…何度でも、お前を愛そう」

ああ………なんて素敵なんだろう。

貴方はいつだって私に素敵な言葉をくれる。

「…ずっと待っています」

私は何も返せないけれど、せめて穏やかに逝けます様に。

安心して。
私は、大丈夫。
笑って貴方を送り出せる。

「綺麗な、笑顔だ…愛してるよ、ティエリア―――…」

歳をとってから言わなくなった愛の言葉。
そして私の名前を呼んで、彼はそっと目を閉じた。

…良かった。
貴方が好きだと言っていた笑顔で貴方を送る事が出来た。

「………わたし、も…愛してる…っ、愛してる、ロックオン…」

だから、今だけは少し泣かせて下さい。



ずっと、ずっと忘れない。
貴方と過ごした日々も、貴方がくれた言葉も、貴方の最期も。

何十年、何百年………例えこの世界が終わっても、私は貴方を待ち続ける。

深い喪失の悲しみは、孤独よりずっと痛いけれど、貴方はまた私を愛してくれると約束してくれたから。



いつの間にか窓の外には雪が降っていた。

それは、貴方が愛して憎んだ世界が最期にくれた、優しく小さな奇跡かもしれない。

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