00≫≫1st SEASON
不機嫌なピンク 4
「ロックオン・ストラトス!突然どうしたんですか…!」
ティエリアの手を握ったまま、ロックオンは大きな歩幅でずかずかと歩いていく。
引っ張られる形のティエリアは突然のロックオンの行動に戸惑い、目の前の背中に声を掛けるが返事は無い。
もしかしたら不愉快にさせたのだろうか?
心当たりのあるティエリアは、その手を振り払う事も出来ず着いていくしかなかった。
メインストリートから一本道を外れると、人通りも少なくなり、暫く歩けば緑が囲む小さな公園がある。
どうやらロックオンの目的地はそこらしく、公園が近くなると少しだけ歩く速度が遅くなった。
公園に入り、人目が付き難そうな木の生い茂る片隅までロックオンはティエリアの手を引いていくが、あの男を巻く為の行動では無さそうだ。
現に、ピッタリと後を着いて来た男には、二人の姿は丸見えだ。
ロックオンもそれは承知で、わざわざちゃんと着いて来ているかを確認しながら歩いていた。
ふぅ…と一息ついて、一本の木に背中を預けたロックオンの目の前に、不安そうな表情で佇むティエリアが居た。
「…怒っているんですか?」
いつもの不遜な態度はどこへやら。
視線を落としたティエリアは繋いでいる手を離そうとしない。
まるでその手に縋っている様な姿にロックオンは微笑む。
「んー?別に?」
「じゃあ、何で…」
「だって人前じゃ出来ないだろ?」
「な―――…っ?!」
ティエリアが『何を?』と問うより早く、ロックオンは繋いでいた手を引いてティエリアの体を抱き寄せ、その唇を自分のそれで塞いだ。
繋いだ手を離すのは少し勿体ない気がしたが、代わりに首の後ろと細い腰にその長くしなやかな腕を回し、逃げられない様に体を密着させた。
「ん―――っ!」
ティエリアは腕を突っ張ってロックオンの体を押し離そうとしたが、ロックオンの背後でしっかり根を張る木に邪魔され逃れる事は叶わない。
ただ重ねているだけかと思われた唇は、薄く開くとすかさず舌が入り込み、口の中まで蹂躙する。
思わず、ティエリアはそれを受け入れてしまった。
口の中に他人の舌が入り込み、自分の舌と絡むその未知の感覚。
卑猥な水音と甘い吐息。
それらはティエリアから抵抗するという思考を奪い、全ての神経をその行為に集中させていく。
ティエリアがそのキスに夢中になっているのを薄く目を開けて確認したロックオンは、ティエリアの紫紺の髪の向こうに見えるあの男に射抜く視線をやった。
突然視線が合って微かに怯んだ様子の男から目を逸らす事無く、ロックオンはティエリアに口付けたまま笑った。
―――残念だな、これは俺のだ。
ロックオンの笑った気配を感じたのか、忌ま忌ましそうにそして少々シラけた様に顔を歪めて男は背を向けた。
その背中が視界から消えたのを確認すると、ロックオンは名残惜しそうに唇を僅かに離した。
「んっ、ふぁ………」
「ティエリア…」
熱い息が掛かる距離でロックオンはティエリアの名を呟くと、肩で息をするティエリアのその濡れた唇に舌をそっと這わせる。
「…んっ」
ピクリ、と体を震わせるティエリアにロックオンは満足そうに笑った。
「もうあの男は居ないぜ?」
ティエリアの乱れた前髪を耳に掛けてやりながらロックオンが言うと、ティエリアは潤んだ赤い瞳を丸くした。
「え…?」
力の抜けた体をロックオンに預けたまま背後を振り返ると、地上に降りてからずっと付き纏っていた陰が無い。
ホッとすると同時にはっきりする思考。
ティエリアは首まで真っ赤に染め上げ、ロックオン目掛けて拳を振り上げた。
「恥を知れ!!」
「結果オーライだろうが。それに…」
ティエリアの拳を手の平で受け止めたロックオンは、そのままティエリアの耳元に唇を寄せた。
「…お望みとあらば、責任は取るつもりだぜ?」
耳に直接流れ込んでくる艶のある声と熱い息に、再び体が熱くなる。
「…っ…結構です!」
流されそうになる自分を叱咤し、ティエリアは力の限りロックオンの腕の中から逃れ出ると、ロックオンは『それは残念』と肩を竦めた。
「まぁ、お前さんは美人だからな。またあんなのに付き纏われたら、今度は『俺でも良い』じゃなくて『俺に』頼めよ?」
どうやらロックオンはティエリアの最初の頼み方が気に入らなかった様で。
確かに『ロックオンでも良い』何て失礼だったかもしれない。
ティエリアは未だ熱い感触の残る唇を指先でなぞって思う。
―――今度付き纏われる様な事があったら、殴ってでも自分一人で解決してやる。
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