00≫≫1st SEASON
The Rain Leaves a Scar
その日は、朝から雨が降っていた。
作戦の為、地上で生活を送る事になった俺達。
俺は何故かティエリアと住居を共にしていた。
地上での生活が不慣れなティエリアに一人住まいをさせるのは危険と判断され、白羽の矢が立ったのが俺。
成人してるからっていう取って付けた様な理由で。
もちろん、ミス・スメラギには抗議したが『貴方、どうせあまり部屋に居ないんでしょ?』なんて冷たい言葉で突き放された。
その言葉通り、俺は朝から晩まで殆ど部屋には居なかったけれど。
毎日ティエリアの食事の調達と安否確認の為に部屋に帰りはしたが、それ以上干渉はしなかったし、お陰でティエリアからヒステリックな不満の声が上がる事も無く上手くやっていた。
なのに、その日は朝から雨が降っていた。
「よう、おはよう」
ダイニングの椅子に腰掛け、読んでいた本のページをめくりながら、のそのそと起きてきたティエリアに声を掛けた。
「………」
寝起きのティエリアを見るのは初めてだったし、ティエリアにしてみれば起きた時に俺が居るのも初めてだろう。
「コーヒー飲むか?」
返事は無かったが特に気にも留めず、自分のカップにコーヒーを継ぎ足すついでにティエリアのピンクのマグカップにコーヒーを注いでやった。
テーブルに置けば、ティエリアは俺と対面になる椅子を引いて腰掛けた。
俺と食卓を共にするのを嫌がってはいないらしい事に、僅かにホッとする。
「牛乳…」
…どうやらブラックはお気に召さなかった様で。
ぽつりと呟いて、席を立とうとするが、俺はそれを制して側の冷蔵庫から牛乳のパックを取り出した。
「砂糖は?」
「要りません」
牛乳を受け取ったティエリアは、神経質そうに牛乳をマグカップに注いだ。
乳白色に変わるマグカップの中を確認し、牛乳を俺の手に戻した。
「今日は出掛けないんですか?」
冷蔵庫を閉め、椅子に座り直して、さぁ本の続きを…と、読んだ所までで伏せてあった本に手を伸ばした時、珍しくティエリアから話し掛けてきた。
何気ないその問いに、雨が降っていた事を思い出してしまった。
「…雨は嫌いなんだ」
こんな所で本を読んでいたのは、唯一このダイニングには窓が無かった…そんな些細な理由から。
本に伸ばし掛けた手を握り締めた。
「雨が降ると、渇いた地面が濡れて染み込んだ血の臭いが立ち上るんだ。むせ返る臭いが、まるで亡者が地面から這い出す様な幻覚を見せる………引きずり込まれるんじゃないかって、俺は………」
テロリストが残した傷痕は、深く大地に染み付いた。
次第に生活を取り戻し、忘れられると思った頃に決まって雨は降り、血の臭いと共にあの時の惨劇を思い出させる。
ああ―――俺は平穏を望んではいけない。
いつか、同じ様にどす黒い血を大地に染み込ませて、無惨に死んで―――…
「………っ!」
微かに息を飲む音と、ガタン!と派手に椅子が倒れる音がしたかと思った瞬間、強い力が俺を襲った。
「…オイオイ、どうした?」
あまりに有り得ない今の状況に動揺した。
まさか、あのティエリアに抱きしめられているなんて。
「解りません…でも、怖いと思った」
「何だよ…怖いって…」
力任せに頭を胸の中に押し込められて、息苦しさに身じろいだ。
「貴方が、連れていかれそうで…」
言われて初めて、自分が過去に意識を持っていかれてた事に気付いた。
「そうか…悪かったな」
「………」
腕を回し、ティエリアの背中に触れると、微かに震えている様だった。
怖がらせちまったな。
安心させる為にその背中を摩ってやると、ティエリアはほんの少しだけ腕の力を抜いたが、俺を離す気は無いらしい。
ああ、こいつ…良い匂いがする…安心するな………。
俺はティエリアの胸に頭を預けながら、そっと目を閉じた。
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