00≫≫1st SEASON
身勝手な男
なんて身勝手な男なのだろうと思った。
飄々としているが、優しく大人で男気のある好漢―――それがロックオンに対する多くの人からの評価。
今なら僕はそれを一笑に付する事が出来るだろう。
『彼の何を見ているんだ』と、多少の優越感を込めて。
僕は彼の手に握られ、ぐしゃりと形を変えた眼鏡を溜め息と共に諦めるしかなかった。
それはほんの少し前。
ベッドの上で互いに背を預け合いながら本を読んでいた。
それだけの事で、特別何か起こった訳ではない。
もしかしたら、ロックオン自身は本を読み終えたのかもしれないし、はたまた読んでいた本の展開が気に入らなかったのかもしれない。
だが、少なくとも僕にとっては何事も無かったのだ。
だから、背を預けていたロックオンが本を投げ出して僕を振り返ったのは唐突すぎる出来事だった。
「なあ。ティエリアは何で伊達眼鏡なんか掛けてるんだ?」
言われた言葉も突然でリアクションを取れずにいると、彼は僕の持っていた本さえも叩き落とした。
「そんなレンズ越しじゃなくて、ちゃんとお前の目で俺を見ろよ」
そう言うが早いか、ロックオンは僕から眼鏡を取り上げ、その手の中で握り潰した。
呆れた僕の唇から漏れる溜め息を零させないように唇を重ねてきたロックオンは、『怒るなよ』とでも言うように殊更甘く僕を抱き寄せる。
本当に身勝手な男だ。
そうやって抱き締める手は、革のグローブで包まれているじゃないか。
だから僕は、大切な狙撃手の手を守るそのグローブをいつか―――多分、戦いが終わったら―――剥いで噛み付いてやろうと、潰れた眼鏡の仕返しを算段をする。
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