00≫≫1st SEASON
カケラ
踏み締める花筵が、この花の終わりの時期を告げている。
ミス・スメラギの提案で花見に来たのは良いが、無理矢理連れて来られたティエリアが宴会の空気に耐えられなくなったのは予想の範疇で。
それでもティエリアにしては随分と我慢した方かもしれない。
俺が追い掛けようと立ち上がった時、飲んでいた酒で僅かに足元がふらつくくらいの時間はそこに居たのだから。
宴の喧騒が遠くに聞こえるまで元の場所からは離れたが、それでも桜並木は途切れる事なく、微かな甘い香りと共に俺達を包んでいた。
俺は数歩先を行くティエリアの背中を見詰めながら、羽織っているカーディガンが桜の色と同じだとぼんやり頭の隅で思いながら、ティエリアの愚痴を聞く。
「花見なんて言って、まるで花を見ていない。酒を飲んでいるだけだ」
「飲む理由が欲しいだけさ」
そう答えると、ティエリアはピタリと足を止めて納得がいかないといった表情で俺を振り返った。
「スメラギ・李・ノリエガは理由が無くても飲んでいる」
「…違いない」
肩を竦めると、ティエリアは何が気に入らなかったのか―――おそらくは単なる八つ当たりだろう―――俺を一睨みし、また俺の前を歩き出す。
待てよ、とティエリアを追い掛けようとしたその時。
強く風が吹いた。
ティエリアのピンク色のカーディガンの裾がふわりと風で膨らむ。
ざわざわと騒ぐ桜の枝から落ちる花びらと地面に落ちた花びらが風に煽られ舞い上がり、何かのカケラのようにキラキラとティエリアを包んだ。
桜の色と、ティエリアのカーディガンの色はよく似ていて―――…
「ティエリア!!」
俺は慌てて手を伸ばし、ティエリアの肩を掴んだ。
「…何か?」
風が止んだそこには、不思議そうに俺を振り返るティエリアが居るだけだった。
「あ………花びら、付いてんぞ」
伸ばした手で紫紺の髪に絡んだ桜の花びらを摘んで、そっと取り去ってやる。
じっと俺を見詰める赤い瞳に、俺は苦笑した。
言えるかよ。
ティエリアが桜の中に溶けて、消えてしまうかと思った―――なんて。
まだ止まぬ焦燥感を抱いたままティエリアの体を抱きしめた。
「酔ってるんですか?」
耳元で囁くように吹き込まれるティエリアの声。
「少し…な」
ティエリアの肩口に顔を埋めた。
鼻腔を擽る甘い香りが、一度は酔いから冷めた俺をまた酔わせてくれるような気がした。
ああ、どうしよう。
他に大切なものなんて欲しくないんだ。
視界の端でひらひらと舞い散る薄紅の花。
気付いたこの感情が、このカケラのように散ってしまえば良いのにと思った。
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