00≫≫1st SEASON
寝ねがてに
どこで覚えてきたのか、ティエリアは『恋人同士は一緒に寝る』というのを実践すると言い出した。
一瞬面食らったが、その誘いに色っぽい意味は含まれていないと解ると、僅かな落胆と共に不安が襲った。
正直言うと断りたかったが、俺を『恋人』と言ったティエリアの期待を裏切りたくなくて思わず了承してしまった。
誰かが側に居ると眠れない。
どんなに疲れていても、どんなに安心出来る場所であっても。
俺は側に人が居て眠る事は無い。
それは、あまり人様には言えない十年間を過ごしてきたせいかもしれない。
染み付いたものはどうしようもないと割り切りながら、時折そんな自分に嫌気がさす。
自分が眠れない事は大した問題じゃない。
問題はそういった不自然からくる歪みだ。
『貴方が私を愛していないからだわ』なんて、その事で喧嘩別れした年上の人の言葉はすっかりトラウマだ。
まさかティエリアがその人と同じ事を言うとは思えないが、それでも気にしてしまう。
「どうかしましたか?」
色気の無い、いつものアンダーシャツでベッドに潜り込んだティエリアが渋る態度の俺を見上げた。
「いや…何でもないよ」
ティエリアに知られないようにこっそりと溜め息を漏らして、俺はティエリアの隣に体を横たえた。
お休みのキスをして明かりを落とすと、暗闇が広がる。
しばらくモゾモゾと寝心地の良い体制を探していたティエリアも、今は大人しくなり寝息が聞こえるだけだ。
暗闇に慣れた俺の目は、僅かな明かりを反射しぼんやりと浮かび上がる白い天井をただ映した。
本当は、少しだけ期待していた。
俺にトラウマを植え付けたあの人の言う通りなら、ティエリアの側だったら、もしかしたら眠れるのではないかと。
結果はこうして起きているのだから、やっぱり愛してるとか愛してないとか、そんな事は関係ないんだろう。
それとも俺はティエリアを愛していないのだろうか。
『放っておけない』の延長なだけで、実はこの気持ちは友愛の情でしかないのかもしれない。
………駄目だ。
一人で居る夜は酷く考えが陰鬱になる。
ティエリアが起きる頃にまた戻れば良い。
シャワーを浴びて、食堂かどこかで仮眠を取ろう。
ティエリアを起こさないようにと、そっと体を起こすとシャツの裾が引き攣れる感覚がした。
見下ろせば、暗闇の中で赤い瞳がじっと俺を見ていた。
「…起きてたのか…?」
小さな声で問うと、ティエリアも小さく頷いた。
「人が側に居ると眠れないんです」
俺と同じ理由。
「じゃあ、何で…」
「恋人同士は一緒に寝るものなのでしょう?僕は貴方とこうしたかっただけです」
眠る事が目的じゃない、と再びティエリアは目を閉じて、今度は俺の体にしっかりと身を寄せてきた。
ティエリアの言葉は、ストンと俺の胸に落ちた。
「…そういう可愛い事を言うと、寝るだけじゃ済まなくなるぞ」
ティエリアの体を抱き寄せながら言うと、意味を解っているのかいないのか『お好きにどうぞ』と返ってくるのに思わず笑ってしまった。
ティエリアと同じように目を閉じて、深くゆっくりと呼吸をする。
ティエリアの感触、体温、匂い、呼吸―――全身でティエリアが側に居る事を感じる。
もし誰かがここに居たら、俺達は眠っているように見えるだろうか。
その寝顔は、幸せに見えるだろうか―――…
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