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00≫≫1st SEASON
sweetly damages



何百年もの長い間、形を変えない物がある。

太陽光がエネルギーの主となり、人々は宇宙と地上を行き来するこの時代にも変わらず使用されているというのだから、それは非常に優れている物なのだろう。

だが、完璧な訳ではない。

それには決定的な問題点がある。

それを何百年もの長い間、見て見ぬ振りをしているのは人間の怠慢だと俺は思う。




―――俺の目の前にはイチゴのジャムの『瓶詰』がある。

さっきからどうしてもこの瓶の蓋が開かない。

握力は普通にある。
腕力だってそれなりに。

なのに何故、開かない。

どうして人間はこの蓋を簡単に開けられるように改良する努力を怠ったのか。

イライラしながら、こんなにきつく閉めるなんて力加減の解らない事をするのはきっとアレルヤ・ハプティズムだ…と、この場にいない男に怒りをぶつけた。

別にそこにあるバターでこのトーストを食べても差し支えない。
だが食べられないとなると無性に食べたくなるものだ。

アレルヤ・ハプティズムを呼び出して開けさせてやろうかと端末に手を伸ばすと、不意に食堂の扉が開いた。

「お、ティエリア。遅い朝食だな」

「…ええ、まぁ…」

覗かせた顔に、端末に伸ばしかけた手を引っ込めた。

ロックオン・ストラトスの目の前でジャムの瓶の蓋を開けさせる為だけにアレルヤ・ハプティズムを呼び出してみろ。

面倒なだけだ。

これはとうとうイチゴジャムを諦めなければならない。
苦々しくもバターに手を伸ばした所で、革の手袋に包まれた狙撃手の手が視界を横切る。

「お前さんに頼みがあるんだが…」

ロックオン・ストラトスはそう俺に話し掛けながら、まるで話しているついでに爪を弄るような、そんな何気ない動作で蓋の閉まったイチゴジャムの瓶を手に取り、難無く蓋を開けて元の場所に戻した。

「あ………」

開けてくれた…のか?

そう思って口を開いたが、彼は話しを続ける事で俺の言葉を遮る。

「デュナメスのシステムがハロと上手くリンクしてないんだ。後で調整を手伝ってくれないか?」

「あ、ああ…解りました…」

ロックオンはそのままハロを小脇に抱えて『じゃあ、後で』と去ってしまった。


いつもこうだ。

彼はお礼なんて求めていない。
お礼どころか、きっと何も求めはしないのだろう。

俺はいつだって彼に言いそびれる。

『ありがとう』や、もしかしたらそれ以外も。


トーストに乗せたイチゴジャムは、想像していたよりも遥かに甘く俺の舌を焼いた。

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あきゅろす。
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