00≫≫1st SEASON
冷たい手
「お前の手、冷たいな」
何の気無しに発せられたそれだけの言葉に、胸がツキンと痛むようになったのは、いつからだろう。
珍しく手袋を外していたロックオンの手に、ふと僕の手が触れた。
それだけの事だった。
触れた瞬間、ロックオンは少し驚いたように僕を振り返り言った。
「お前の手、冷たいな」
笑っていた。
悪意のカケラも無い言葉だと解っていた。
だけど、まるで血の通わない人形だと言われているようで。
また一つ、自分の嫌いな所が増えた。
彼が好きでいてくれるような理想の僕には程遠く、このままでは愛想を尽かされるのではないか、と。
そうやって慣れない事にはてんでネガティブな思考をする僕は、自然とロックオンから距離を置いてしまっていた。
そんなある日、彼が熱を出した。
「医療用ポッドは細胞を活性化するから、熱が出てる時はあまり入らない方が良いって…だから部屋で寝てるよ」
お見舞いに行っておいでよ、とアレルヤが言うのに僕は眉をしかめた。
この男は普段はマヌケなくせに、妙にこういう事にだけは勘が働く。
軽く睨むと、まるで意に介さないとばかりに笑顔でひらひらと手を振る。
別にアレルヤの言う事を聞いてやる訳ではないけれど、背中を押されて僕はロックオンの部屋の前に居る。
扉をノックしようと腕を上げ、眠っていたらと考えてノックをせずに扉を開けた。
ロックは解除されている。
暗い部屋に足を踏み入れると、ロックオンは人の気配に薄く目を開けた。
僕の姿を確認すると、彼は緊張を解き僅かに唇の端を上げる。
「…ティエリア…」
掠れた声で僕を呼んだ。
苦しそうだ…。
本当にポッドに入らなくて良いのだろうか?
汗が滲むロックオンの額に、思わず手を伸ばした。
熱い………。
「辛いですか?」
そう問うと、彼は薄く開けていた目をゆっくり閉じた。
「…ああ…でもお前の手、冷たくて気持ち良い―――…」
今まで苦しそうに肩でしていた呼吸をゆっくり吐き出して、安心したように身を委ねる。
「…ロックオン?」
―――眠っている?
警戒心の強さが体に染み付いてしまった彼が、これだけ無防備になってくれるのは熱のせいじゃないと、自惚れても良いのだろうか?
この冷たい手でも貴方を癒やせるならば、僕は血の通わない人形でも構わないと思う。
ロックオンの額に乗せた冷たい手が熱で温かくなるのを感じて、ほんの少し残念な気分になった。
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