00≫≫1st SEASON
翼のはえた夢
その日のロックオンは、酷く機嫌が良かった。
スメラギ・李・ノリエガに誘われて久し振りに摂取したアルコールに酔っていたのかもしれない。
ロックオンは私を捕まえて自分の部屋に引っ張り込むと、普段は決して口にしない『家族』の話しを聞かせたのだ。
テロで家族を亡くしていた事は知っていたから、暗い感情が蘇ってしまうのではと懸念したが、意外にも彼は幼い頃の楽しい思い出ばかりを語る。
「それでライルとエイミーがな…」
ライルとエイミーがお化けの話しを怖がって、夜自分のベッドに潜り込んできた話しはもう三回目。
やはりロックオンは酔っている。
彼の中で特に楽しかった、愛おしい思い出は何度も繰り返し話した。
お陰で特に説明もされていないが、ライルが弟でエイミーが妹だと理解はした。
ひとしきり話して眠気が襲ってきたのか、大きな欠伸を漏らしたロックオンはベッドに倒れ込んで私の手を握った。
こうして何も言わないで手を握ってくる時は、言いたい何かが言えない時だと知っている。
「家族が恋しいですか?」
「………」
「家族が欲しいですか?」
「………」
肯定の代わりにギュウッと握られた手の温かさと反比例して、俺の内側はザワザワと波を立てながら冷えていく。
私が人間ならば、或いは女性という性別を与えられていたのなら、私は貴方に家族をあげられたかもしれない。
貴方が話す、幸せな家庭を作る事も出来たかもしれない。
だけど私はマイスターになるべく作られた存在で、貴方の望む未来は歩めない。
「なら、別れましょう」
スルリと口から出た言葉に、ロックオンは飛び起きた。
「はぁ?!」
呆然と俺を見る間抜けた顔を正面から見据え、私は続ける。
「俺は子供を作れないし、貴方がそれを望むならそうした方がいい」
「ちょっ…待てよ!」
「貴方が家族を欲しいと言うなら俺では不適格だ」
「待てって!」
「だからこの関係は終わりにすべきだ」
ロックオンを無視して喋っていると、いつの間に私は視線を逸らしていたのか…彼の震える拳が目に入った。
…どうしたんだろう?
そう思った瞬間。
「ふざけんじゃねぇ!!」
「っ…!」
突然の怒鳴り声に、私の体はビクリと跳ねた。
「…俺は…お前が俺の家族になってくれるんだとばかり思ってた…!」
噛み付くように私を睨んでいたロックオンの目から、じわりと涙の粒が滲んだ。
「ロックオ…」
思わずロックオンに手を伸ばしたが、その手はピシャリと払い退けられ、ロックオンは俯いてしまった。
「ずっとそう思ってたよ、俺は…だけどお前は違ったのかよ…っ!?」
ちくしょう、と呟きながら、ロックオンの涙がシーツにポタポタと落ちて消えた。
―――やっぱり飲み過ぎだ。
貴方はいつだって飄々とはぐらかすのに。
私の言葉なんか上手くかわして、自分の思う通りに事を運ぶ。
それがこんな―――…
もう一度手を伸ばしてロックオンに触れたが、今度は払われなかったのでそのまま頭を抱え込む様に抱きしめた。
「…悪かったよ」
暫くして、ロックオンはバツが悪そうにそう言った。
「どうして貴方が謝るんですか?」
何だ。酔いは覚めてしまったのか、と少し残念に思う自分が居る。
「俺の勝手な理想をお前に押し付けてた―――でも俺は、ティエリアと家族になる事しか考えて無かったんだ」
私がロックオンを抱きしめる姿勢のまま、ロックオンは私の背中に腕を回して引き寄せた。
「私じゃ貴方の望む未来は作れない」
ロックオンの髪を撫でながら私は言う。
貴方だって、本当は私が何者なのか…薄々感づいている筈だ。
「…そんな悲しい事言うな。お前は、お前が望めばどんな未来も掴める」
「私が…望めば…?」
人間と違い、生きる意味を与えられて作られた私でも未来を望む事は出来るのだろうか?
「嫌か?俺と家族になるの」
顔を上げたロックオンは、泣いて赤くなった瞳をごまかす様に微笑んだ。
「貴方が…望んでくれるなら」
私がそう言うと、どちらからともなく唇を重ねた―――…
本当は、貴方の側に居られるなら何でも良いんだ。
けれど貴方がそれを望むなら―――やはりそれは私の望み、なのだろう。
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