00≫≫1st SEASON
ペンギン
「ティエリア、今から地上に行かないか?」
いつもはハロを抱えている手にリニアトレインのチケットが二枚。
それをヒラヒラとさせて誘う貴方は、僕が断るなんて少しも思ってない。
「いつも急で強引だ…貴方は」
悔しいかな、僕はやはり断る事は出来ないのだ。
手にしていた端末をポケットに仕舞いながら文句を言うくらいは許されるだろう。
「そうか?」
悪びれた様子も無く扉を開けるロックオンの『行こう』と延ばす手を取った。
リニアトレインの中、低軌道部のオービタルリングを過ぎた辺りで携帯端末に夢中なロックオンに声を掛ける。
「どこに行くんですか?」
大嫌いな地上に行くのだから、せめて楽しい所に連れてってくれるんでしょう?
「んー…どこか行きたい所あるか?」
端末から目を離さず、返ってきたのは気の抜けた返事。
「…行きたい所があるから僕を誘ったんじゃないですか?」
驚いて思わず隣に座るロックオンの方へ身を乗り出す。
「いや…お前と出掛けたかっただけ」
「………」
そう言われて嬉しくない訳が無く、僕は文句も言えずに元の体制に戻る。
「よし!水族館に行くか」
端末を閉じて長い足を組み直す。
「…水族館?」
「ペンギン見ようぜ。ペンギン」
「はあ…ペンギン…」
「イルカもいるらしいぜ」
その言い方で端末で見ていたのはタウン情報か何かだと知る。
こうしていつも急に誘う貴方。
それは家族の仇を討つ為に生きている貴方が、未来の約束が出来ない変わりにくれる精一杯の優しさなんだと知っている。
―――仕方ないと思う。
僕が貴方を特別だと認識した時には、もう貴方は家族の仇を抱えて生きていたのだから。
その気持ちを抱えた貴方を好きになったのだから。
手を延ばして、革の手袋に包まれたロックオンの手を引き寄せる。
「ん?どうした?」
ロックオンは特に驚いた様子も見せず、嬉しそうに僕の手に指を絡めた。
「…楽しみですね」
革の手袋に隔たれた手を、ギュッと握る。
リニアトレインのアナウンスがもうすぐ地上に着く事を教えた。
不意に握った手を引っ張られ、僕の体はロックオンの体に凭れこんだ。
「ロックオン?」
見上げると、優しく微笑むロックオンの顔が近付く。
「ティエリア…」
唇が触れる瞬間、その唇が『ごめん』と動いたのを僕は見ないふりをした。
だって仕方ないでしょう?
貴方を責めるつもりなんて、カケラも無いのだから。
貴方がその精一杯で与えてくれる日常と貴方を、僕はどうしようもなく愛おしく感じるのです。
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