00≫≫1st SEASON
君へ募る雪恋情
その日は寒さで目が覚めた。
―――寒い?どういう事だ?
トレミーの居住区はいつでも快適な気温と湿度を保っている筈なのに。
慌てていつもの服の上に厚手のジャケットを着込み、ハロを小脇に抱えて廊下に出る。
やっぱり寒い。
バーを掴んでしばらく進んだ所で、ノーマルスーツを着たおやっさんと出会った。
「おお、ロックオン!ちょうど良かった。ハロを貸してくれ」
聞けば、居住区の数基の空調の調子が悪く修理に追われているらしい。
なるほど。
忘れてたけど、宇宙ってえらく寒いんだっけ。
空調が壊れてたら外気温が艦内を冷やす。
「いつ直る?」
ハロを渡しながら聞くと、おやっさんは疲れを滲ませた溜め息を漏らす。
「急いではいるが…半日は掛かるだろうな」
「悪いね」
「何、構わんさ」
たまにはガンダム以外を修理するのも悪くない、と皮肉に言われ、苦笑するしかなかった。
寒いのは嫌いじゃない。
だが、居住区以外ならいつも通りの快適な気温と湿度だと解っているのにわざわざ部屋に戻ってしまう俺に多少のマゾっ気を感じながら、暖房の無い部屋で温い温度を残した毛布に包まる。
そのままぼんやりとベッドの上に座っていると、ロックを掛けた筈の部屋の扉が勝手に開いた。
「何してるんですか」
そうする事がさも当然であるかのような表情で現れたのは、掛値なしの美人。
「そりゃこっちの台詞だ」
勝手に人の部屋に入って来て『何してる』は無いだろう。
「今、居住区に居るのなんて修理中のイアン・ヴァスティか貴方くらいです」
「…確かにな」
物好きですね、とでも言いたげなティエリアに『お前もな』と心の中でぼやいて眼鏡の奥を見遣れば、物言いたげに紅の光彩が揺らめいた。
「…故郷でも思い出してるんですか?」
「秘匿事項なので言えません」
俺がそう茶化すと、ティエリアは眼鏡の奥で形の良い柳眉を不快に歪めた。
ティエリアの言う通りかもしれない。
北極圏にありながら雪も滅多に降らないような温暖な国だったが、やはりそれなりに寒い。
暫く宇宙での暮らしに慣れてしまって寒さに縁遠くなったせいで、突然感じる寒さに何か郷愁めいたものを感じていたのだろうか。
ふと、不機嫌にも寒そうに組まれたティエリアの腕に手を伸ばした。
「何ですか?」
引き寄せると言葉の割に抵抗も無く、ティエリアは俺の腕の中に落ちてきた。
「温室育ちにゃ解らないだろうが、寒いと人肌が恋しくなるんだ」
ふと触れた手の甲も頬に触る髪も、ティエリアの体はどこもかしこも冷たい。
羽織っていた毛布で冷えた体を包み込んで暖める様に背中から抱き締める。
「温室育ちは関係無いでしょう」
くるり、と俺の方に体をよじったティエリアは、向き合う様に俺の膝の上に座り直した。
「?」
僅かに高い位置になったティエリアの顔を見上げれば、ティエリアの唇は綺麗に弧を描く。
「寒いと人肌が恋しくなるのは、本能だ」
だから貴方の所に来たのに、と悩ましげに俺の首に腕を回す。
「…確かにな」
暖めたからか、それとも違う理由か…少しだけ熱く感じるティエリアの体を引き寄せ、二人で笑った。
思ってもみなかった冬の寒さに、欲望という名の雪が体の奥に降り積もる気配がした。
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【恋愛計測】の相奈由維さんとのお話しから書いた話しで、タイトルも由維さんに付けて頂きました!
由維さんにこっそり捧げます。
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