00≫≫1st SEASON
雪日和〜yuki-biyori〜
車の中で時計をチラリと見る。
間に合うかな…。
車のハンドルを苛々と握って、混んでいる道をゆっくり進む。
いつもなら待ち合わせの五分前には着く筈の道程。
計算違いは今日が休日で予想よりも道が混んでいた事。
そして季節が冬だという事。
暑さにも寒さにも慣れていない温室育ちはすぐに臍を曲げるに違いない。
やっとの思いでこぎつけたデートに、俺は早速ヘマした様だ。
ようやく着いた待ち合わせ場所近く。
車を停める事にさえ手間取った。
遠くに見える時計台の長針は待ち合わせ時間からほんの少し進んでいる。
ああ神様、どうか愛しの神経質なあの子が帰っているなんて事ありませんように!
急いで向かった待ち合わせの時計台の下、真っ白なコートを着た美人が凍えていた。
紫紺の艶やかな髪の先がボアのついた大きなフードの襟の中に潜り込んで丸く浮き上がり、いつもはシャープな印象の顔を柔らかく彩る。
じっと、その場から動く気配の無いティエリア。
どうやら俺の心配は杞憂に終わった様で、俺は年甲斐も無く浮かれた。
「可愛いコートだな、ティエリア」
声を掛けると、眼鏡の向こうの目を丸くしてティエリアは振り返った。
新しいコートに『似合うよ』と言ってやればティエリアは一瞬嬉しそうにしながら、すぐに不機嫌を装った。
「…待ち合わせに遅刻しておいて、言う言葉はそれですか?」
不満げな言い方をしながら、口元が緩んでいるのにきっと本人は気付いていないんだろう。
「悪い、悪い。お前が可愛いからつい…でも遅刻ったって…五分くらいだぜ?」
わざと意地悪く言うと、ティエリアはあからさまに狼狽して見せた。
「ご、五分でも遅刻は遅刻です!」
ティエリアの頬が、寒さに朱くなった鼻と同じ色に染まる。
「はいはい、そうだな。悪かったよ…ほら」
気難しいお姫様はこれ以上からかってはいけない。
引き際を知る俺は素知らぬふりで、いつもとは違う防寒用の手袋を左手だけ外し、その手でティエリアの剥き出しの右手を掴んで自分のコートのポケットに仕舞った。
絡めた指が氷の様に冷たい。
一体どれだけ待ってたんだ………。
「ロック、オン…」
戸惑いに揺れるティエリアの紅い瞳。
何?俺の大事な手を心配してくれてんの?
でも俺はお前の方が大事。
「暖かい?」
「…はい…」
愛しくて、ポケットの中の手をぎゅっと握った。
真っ白なコートに埋もれる、赤い顔に紅い目が冬に咲く薔薇の様だと思う。
空を見上げると、雪が降りそうな曇天。
こんなに良い思いが出来るなら―――地上の冬も悪くない。
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