00≫≫1st SEASON
冬薔薇〜fuyu-sobi〜
地上は嫌いだ。
こんな寒い日は特にそう思う。
宇宙ならいつだって適度な温度と湿度で生活出来るのに…。
チラリと側の時計台を見ると、僕はここに来て三十分を少し過ぎたくらいになるらしい。
寒さに強張った体は筋肉が緊張していて肩の辺りが痛い。
冷たさがアスファルトから靴の裏を伝って、まるで僕の足は凍りついてしまったよう。
ああ、何でこんな目に………。
買ったばかりの白いボアのコートのポケットから手を出す事だって出来やしない。
頭の中には、コートを買った時に目に入ったニットの手袋が思い浮かぶ。
あの手袋、買えば良かった。
「可愛いコートだな、ティエリア」
突然降ってきた声に僅かに驚いた。
黒いコートをスマートに着こなし、目敏く僕のコートが新品だと気付いて『似合うよ』と笑顔で褒めるのは、ロックオン・ストラトス。
そうだ。
僕はこの男のせいでここに居るんだ。
「…待ち合わせに遅刻しておいて、言う言葉はそれですか?」
「悪い、悪い。お前が可愛いからつい…でも遅刻ったって…五分くらいだぜ?」
しまった…!
「ご、五分でも遅刻は遅刻です!」
ロックオンとの待ち合わせに浮かれて早く来てしまったなんて…言える訳無い!
「はいはい、そうだな。悪かったよ…ほら」
言いながら、ロックオンはいつもとは違う防寒用の手袋を左手だけ外し、その手で僕の右手を掴んで自分のコートのポケットに仕舞った。
ポケットの中で、ロックオンの指が僕の指に絡んだ。
「ロック、オン…」
狙撃手の大事な手を冷やしてしまう…。
そう思いながら、冷え切った体はその甘い誘惑に勝てずにいた。
「暖かい?」
ふわりと優しい笑顔を向けられてしまうと、もう抵抗なんか出来ない。
「…はい…」
じんわりと右手から伝わる温かさ…ああ、でも顔の方が熱い…。
こんな事に煩わされるなんて―――やっぱり地上は嫌いだ。
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