00≫≫1st SEASON
A PRAYER
遠くから、聞き慣れた声が僕を呼ぶのに気付いた。
それは徐々に大きく、はっきりとした声に変わって、急に視界が明るくなる。
煌々と照らす人工的な明かりに視力を奪われながらも、何度か瞬きを繰り返すと全身が活動を始めようとするかの様にざわめきだす。
「ティエリア…!」
ずっと聞こえていたその声に視線を移した。
豊かに巻かれた長い髪も、強気な美しい顔もすっかり憔悴しきってくたびれた様子で、彼女…スメラギ・李・ノリエガが『良かった、良かった』と震える声で繰り返しているのが見えた。
………どうやら、自分は助かったらしい。
他に誰が助かったのか、ここはどこなのか…知りたい事はたくさんあったが、感極まった様子の彼女にそれは問えなかった。
もしかしたら彼女はずっとまともに眠っていなかったのかもしれない。
しばらくして僕が寝ているベッドに上半身を預けながら、コトリと深い眠りに落ちたスメラギ・李・ノリエガ。
彼女を起こさない様に、そっとベッドから抜け出した。
ここは地上なのでは、という杞憂は部屋から出た瞬間に消えた。
通路には全面に窓が施されており、宇宙空間を余す事無く切り取っている。
その構造から、この宇宙に浮かぶ船はプトレマイオスの様な輸送艦でも、ましてや戦艦でも無い事は解ったが、それ以上は解らないままだ。
強化ガラスに手を着いて、宇宙空間を見遣る。
何か、この場所がどこの宙域か特定出来るもの…例えば地球とか…。
不意に涙が溢れた。
(ロックオン…ロックオン…どうして貴方が居ないのに私はここに居るんですか?)
彼が散った宇宙。
とめどない涙がパタパタと足元に落ちるのと比例して、胸がズキズキと痛む。
押さえる様に服の胸元をぐっと掴んだが、全く意味は為さなかった。
(ロックオン…会いたい、会いたい…貴方の側に逝きたい。)
このガラス一枚を隔てた向こうに行ければ、それだけでも今よりは近くに居られる気がするのに。
落ちる涙をただ見ていた瞳を閉じる。
―――逝っておいで、彼の元に。
もう良い。
私の戦いは終わったのだろう?
私には戦う理由なんてもう無い。
だから、逝けば良い。
ロックオンの元へ―――。
心の中を渦巻くロックオンへの激情がゆっくりと治まりを見せたかと思えば、深く深く意識の底に『私』は沈んで、そしてとうとう消え去った。
再び開いた瞳からは、涙はもう流れなかった。
「………ゆっくりおやすみ…ティエリア・アーデ」
頬に残った涙をそっと拭い、僕は宇宙を見詰める。
ロックオン・ストラトス。
貴方の元へ行った泣き虫な『私』を叱らないであげて下さい。
出来れば、そっと抱きしめてあげて下さい。
そして願わくば、いつか『僕たち』が貴方の元へ逝った時に、貴方が笑っています様に―――…
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