00≫≫1st SEASON
SWEET CHILD
「刹那・F・セイエイ。君はどうして独断で突っ走るんだ?後方からの援護射撃もままならなかった」
「それはお前の射撃の腕が下手だからじゃないのか?」
「解った。今すぐ君が俺の射撃訓練の的になれ」
「断る」
ブリーフィングルームの中央で言い合いを続けるティエリアと刹那を見て、スメラギは『最悪ね』と頭を抱える。
ファーストミッションが始まるまで時間が無い。
ミッションを熟すにあたり、様々な状況に対応出来るよう、その場に応じて出撃させるガンダムを変える必要性がある。
何せガンダムは四機しか無いのだ。
全ての組み合わせでの戦闘シミュレーションを繰り返し、万全を期したい………が、いかんせん協調性のカケラも無いクソガキ共。
幸いロックオンとアレルヤは歩み寄る姿勢を見せているが、目の前で口喧嘩を繰り広げているティエリアと刹那に『歩み寄り』という言葉は存在しない。
何度も試してはいるのだが、どうやってもこの二人は上手くいかない。
ここにロックオンが入ればまだましだが、押しの弱いアレルヤが入るとまた二人は勝手にやりだす。
つまり、エクシア・ヴァーチェの組み合わせだけでは無く、エクシア・ヴァーチェ・キュリオスの三機の組み合わせも使えない。
「貴方達の性格まで考慮しなくちゃならないなんて…ヴェーダでも予測しないわ」
このスメラギの愚痴には、ロックオンもアレルヤも返す言葉が無い。
スメラギのアルコール量が増えるのを咎める事など誰が出来よう。
出来るのはこれ以上スメラギの機嫌を損ねない様、子供達の口喧嘩に介入行動をするだけだ。
「お前ら!もういい加減にしろ!」
「ほら刹那、もうやめようね」
ロックオンが二人の間に割って入ると、アレルヤはすかさず刹那を宥めに掛かる。
それを見てロックオンは卑怯な!とアレルヤを睨んだ。
この場合、より簡単に宥められるのは感情の起伏に乏しい刹那の方。
ティエリアは下手をすれば八つ当たりをする。
そう、攻撃目標が刹那から自分に変わる可能性が高いのだ。
こんな時だけ要領の良いアレルヤに、ロックオンは『後で覚えてろよ』と心の中で悪態をつく。
もちろんアレルヤはなるべくロックオンと視線を合わせない様に努めているのだが…。
とはいえ、やはり一番手が掛かるティエリアを放ってはおけない。
ロックオンは軽くため息をつくと、ティエリアの肩に手を回した。
「ティエリアも落ち着けよ」
するとティエリアはジロリと眼鏡の奥からロックオンを睨んだ。
「気安く触らないで下さい」
ああ、ほらこうだ。
解ってた、解ってたけれども泣きたくなる。
もういっそ放棄してしまおうか、と考えて後ろに控えているスメラギの刺すような視線に気付く。
あーもー、解ったよ!
つまりティエリアをどっか持ってきゃ良いんだろ?!
半ば自棄になったロックオンはティエリアの正面に立つと、荷物を抱え上げる様にティエリアの細い腰に腕を回し、その体を肩に担ぎ上げた。
「?!」
ロックオンの突然の行動にスメラギやアレルヤはおろか刹那すら驚愕に目を見開く。
「は、離せ!!ロックオン・ストラトス!!」
「うるせー!!人様の言うことが聞けないガキにゃお仕置きだ!!」
ブリーフィング・ルームから出て行くロックオン(とティエリア)の後ろを、『オシオキ!オシオキ!』と言葉を繰り返しながらハロが着いていくのを、残った三人はただ黙って見送るしかなかった。
ロックオンは暴れるティエリアを徹底的に無視しながら自室の扉を開けた。
ブリーフィング・ルームからここまで、ティエリアに背中を殴られたり腹を蹴られたりはしたが、怒りは痛みに勝る。
部屋に入って、ベッドの上にティエリアを少々乱暴に投げ落とすと、ティエリアが文句に口を開く前にロックオンは言い放つ。
「反省するまでここから出さないからな」
「はぁ?!」
抗議に立ち上がるティエリアを前に、ロックオンは腕を組んで睨み付けながらそれを許さない。
「ハロ、扉をロックしろ。俺が良いと言うまで開けるな」
「リョウカイ!リョウカイ!」
ハロはロックオンの命令に忠実に従う。
当然といえば当然だが、ティエリアの味方はこの場には居ない。
キリキリと奥歯を噛み締めながら、僅かに高い位置にあるロックオンを睨み続ける。
これは放っておけば頭を冷やすというタイプではない。
そうティエリアを分析したロックオンは、こうなれば徹底的に対峙してやろうと質問を投げる。
「…ティエリア。だいたい何で刹那と上手くやれないんだ?」
「なぜ俺ばかり責められなくてはならないんですか!」
「質問に質問で返すな!」
「彼ばかり何も言われないなんて、贔屓だ!」
「拗ねるな!…って、お前…拗ねてるのか?」
「………」
ティエリアは僅かに頬を赤く染め、むくれて視線を逸らした。
その行動が肯定を意味した。
「………拗ねてただけかよ…」
怒りに任せてここまでやったが、拗ねてる子供相手じゃ単なる虐めだ。
現に今、ティエリアは少し泣きそうだし。
ロックオンは大きく息を吐き、がしがしと頭を掻いた。
「あー…解った。俺が悪かったよ」
ティエリアを抱き寄せ、頭を撫でてやると、ティエリアは怖ず怖ずとロックオンのTシャツの裾を掴んだ。
これはもうスメラギには諦めて貰おう…貢ぎ物の酒はどのくらい贈れば良いのか―――そんな考えはとりあえず後回しかもしれない。
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