00≫≫1st SEASON
ウサギの瞳はなぜ赤い?
「こら、ティエリア。パソコンはいい加減にしろ」
「…あ………」
眼鏡を外し、手袋の無い手でその目を覆ってやる。
まったくこの美人は。
目を離すとすぐにこうだ。
プログラムを組み立てるのが楽しいんだろうが、時間を忘れてまで熱中するのはいただけない。
「しかもこんな暗い中でやる奴があるか」
暗闇の中、煌々と光るパソコンのディスプレイは目に痛い。
ドクターからも止められてるだろ、と言えばティエリアは抵抗を止めるが、口だけは達者。
「…貴方に教えるんじゃなかった」
何が、とは言わなかったが、俺はそれを知っている。
ティエリアは『眼白皮症』という遺伝子疾患を持っているらしい。
眼球だけに現れるアルビノの症状の一種。
つまり、ティエリアの目が赤く見えるのは虹彩にメラニン色素が無く透明で、眼底の血液の色が透けているから。
だから、紫外線にも光にも極端に弱い。
ただ―――…
「ロックオン、いい加減手を離して下さい」
ティエリアの長い睫毛が手の平を擽った。
「だーめ。このまま大人しくしてろー」
適度な圧迫感と、温かさは目の疲れを癒す。
「せめてパソコンのシャットダウンを…」
「俺がやってやるよ」
ティエリアの目を塞ぐ手をそのままに、空いた手でマウスを操作してパソコンをシャットダウンした。
プログラムの保存を終え、プツリとモニターの電源が落ちると途端に暗くなる部屋の中。
目隠しをしたまま、軽い体を抱き上げてベッドに運んでやる。
「いやらしいですね」
ベッドに下ろしてやると、どこか軽蔑した様な言い方。
「いやらしい事する空気だろ?」
そんな軽口を叩けば容赦無く蹴りが飛んできた。
細くしなやかな足を避けながら、冗談だと告げる。
…―――ただ、ドクター・モレノに言わせれば、ティエリアの様な遺伝子疾患は今時珍しいらしい。
医学の進歩により、母親の腹の中で遺伝子疾患は発見され、産まれる前に治療されるのが今の常識。
例えば刹那が生まれたクルジスの様な内紛が続く場所でなら、子供を産む時にそんな治療は行わないかもしれない。
しかし、ティエリアはむしろテクノロジーの塊みたいな奴だ。
生まれがそういった場所だとは考え難い。
…じゃあ、何でそんな目で生まれたのか…否、生まれなくてはならなかったのか?
それを知れば、きっとティエリアの正体が解る。
「どうだ?目の調子は?」
押さえていた手の平をそっと外すと、ゆっくりとティエリアは目を開いた。
「…悪くない」
赤い目はじっと俺を見詰める。
その宝石の色の様な瞳に引き寄せられ、瞼にキスを一つ落とす。
その瞳の理由を知りたいが、まだその覚悟は無い。
今は、その瞳に映るだけで精一杯だ。
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