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BASARA≫≫SHORTSHORT
溺れない太陽



「雨か…滅入るな、元就」

長曾我部はこの日、豊臣が瀬戸内に攻めてくるとの報せを持ってやってきた。

いつもなら追い返してやる所だが、仮にも同盟を結んだ仲―――戦の策を立てねばと城に入れてやったのは間違いだったようだ。

「長曾我部、豊臣との戦の策を立てる気が無いのであれば早々に帰れ」

文机の向こうで寝そべる長曾我部に言えば、欠伸を一つ。

「あんたの策を信じてる…それじゃ駄目かい?」

面倒そうに寝返りを打つ。
考える気が無いだけなのは明白。

「ならば、その無駄に大きな体を我の盾に使ってくれよう」

「ああ、そうしろよ…」

嫌味のつもりであったが長曾我部はそれにすら乗らず、眼帯に隠れていない右目を閉じる。

本気で寝入った長曾我部にそれ以上言えず、我は溜め息を一つ零した―――…




…―――滅多な事は言うものではないな。

瀬戸内の本陣に豊臣の軍師、竹中が奇襲を掛けてきたのはつい先程。

不意をつかれ竹中の刀の切っ先が我に向かって伸びた瞬間、我の前に大きな影が過ぎった。

ドス、と嫌な音が耳に届いた。

その影が長曾我部である事を認識するのは些か難しい事ではあったが、この機を逃す手は無い…と、我の体は無意識に動く。

長曾我部の呻く声を間近に聞きながら、我は盾となった長曾我部の肩に手を付き、輪刀を構えて宙に身を翻した。

視界の端に、長曾我部が刀が腹から抜けないように手を血に染めているのが見える。

「元親君を盾に…?!」


………そんな計算はしておらなんだがな。


長曾我部の腹に深々と埋まる刀の先が抜けぬせいで反撃の手を持たぬ竹中は、我の輪刀の前に無防備な姿を晒すしかない。

しかし、直後に起こる爆音と土煙によって竹中を仕留める事は叶わず、代わりに豊臣軍の白旗が上がった。

「引くぞ、半兵衛!」

「秀吉…すまない…」

それは、あっという間の出来事。

竹中を抱えた豊臣が去り際に何か言うていた気もするが、我には地に臥し腹から赤い血を漏らす長曾我部の姿しか目に入りはしなかった。

ぽつぽつと、戦場に雨が降る。

それは次第に地面の色を濃くし、長曾我部の血を流していく。

「雨か………まったく、滅入るわ…」




「阿呆だ阿呆だとは思うていたが、ここまでとはな」

竹中に刺された腹と、その刀を握った手に深々と傷を負いながら、長曾我部は図太く生きていた。

ただ、しばらくは傷による高熱の為に床から起き上がる事は出来なかったらしい。

この日は幾分か体調が回復したと聞いたので見舞ってやりに来たのだが、顔を見ると中々に元気そうで腹が立った。

「そう言うなよ。俺はあんたを死なせたくねぇんだ」

笑ってそのような事を言うのも腹立たしい。

「………」

「生きていればどうしたって幸せが訪れる。あんたにゃ、それを知って欲しい」

長曾我部は言いながら我の頭に触れるが、その手の平が白い布で隔てられている事に尚腹が立つ。

「…やはり阿呆か」

我が心底呆れた溜め息を一つ吐くと、長曾我部はまだ何か言いたそうな顔をした。

我は長曾我部に僅かににじり寄り、その手を取る。

「元就…」

白い布に隠された傷をそっと撫で、長曾我部の隻眼を真っ直ぐと見詰めた。

「そなたが死ねば、その訪れるであろう幸せとやらも意味は無い」

「…それって…」

………我も、阿呆か。

「我は存外、独占欲が強い。浮気をしたら…殺すぞ、元親」

「ははっ!…上等だ」

元親が破顔して我を抱き寄せるのに、腹立たしさは消えた。



雨はやんで、日輪が顔を見せている。

いつかまた雨は降るであろう。

だが、その雲の向こうに日輪はいつでも輝いている事を、我は思い知るのだ―――。

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あきゅろす。
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